【核兵器/ウクライナ戦争】ロシアによる新START履行停止が持つ意味

AP通信のニュース(2023年3月1日付)によると、プーチン大統領は2月28日、2010年調印の新戦略兵器制限条約(新START)を履行停止する法案に署名したということです。

オバマ政権でこの条約の交渉担当者であったローズ・ゴトモエラーが、同条約のウクライナ戦争下での役割について米国の PBS NewsHourの中で分かりやすく説明しています。

Where relations between U.S. and Russia stand a year after Putin’s invasion of Ukraine Feb 21, 2023, PBS NewsHour

新STARTが果たしていた実際的な役割の一部

ゴトモエラー氏による説明の一部を日本語に訳して下記に引用してみます。

  • 「(この条約の下で)頻繁に、1週間に、時には1日に複数回、ロシアは同国の戦略核兵器の移動について、米国に通知してきました」
  • 「ロシアによるこの条約の一時停止によって、米国が何も分からなくなるわけではありません。しかし、情報機関からもたらされる情報に加えて、この条約が機能することで米ロ双方の予測可能性が共有され、米国は今何が起こっているのかを常時把握することができていたのです」

なるほど。

ロシアは(おそらくアメリカも)割とこまめに戦略核兵器の情報を提供していたのですね。

ロシアから提供される情報は、情報機関が独自に収集した情報と合わせることで、精度の高い情報として活用できていたのでしょう。

もちろん、戦略核兵器の動向については、両国とも情報機関や関係当局によって常にチェックされていることと思いますが、条約に基づく公式な情報交換は、互いの信頼関係の構築にとっても、きわめて重要なことですよね。

これが、今回の新STARTの履行停止によって止まってしまう…

我が国にとってもリスクが伴います。

用語説明

戦略核兵器(Strategic Nuclear Weapon)

都市、生産施設、政治中枢などの攻撃、および相手の戦略兵器の破壊を目的とする核兵器。戦略攻撃兵器と戦略防御兵器とがある。

メガトン級の熱核兵器(水素爆弾)が主用されるが、複数独立目標弾頭(MIRV)にはキロトン級のものも使用される。

運搬発射手段としては、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機、空中発射巡航ミサイル(ALCM)、潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)などがある。

以上、『ブリタニカ国際大百科事典』より引用

新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction Treaty)

米国とロシアの大型核弾頭や大型核弾頭を搭載する大陸間弾道ミサイル・潜水艦・爆撃機の配備数を制限し、データ交換や現場査察などの検証手段について合意した条約です。この条約については、米ロ両国が2021年2月3日に、2026年2月5日まで5年間延長することを発表していました。こちらを参照してください。

補足

核の問題を論じるには用語や概念の理解が不可欠

アメリカの留学先で夏季休暇中に核兵器に関する集中講座を受講した際、講義を担当されていたレベッカ・ハインリクス氏は「核の問題を論じるには関連する用語や概念について十分に理解しておくことが極めて重量だ」と述べておられました。

同氏については「トランプ外交の遺産」をめぐる議論でPBS NewsHourに出演されていたのを以前当ブログで紹介しました。こちらからご覧ください。

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