2003年に開始されたイラク戦争から今月で20年が経過しました。報道や米国のレポートによると、イラクでの活動から帰国後の自衛隊員や米国の帰還兵たちの間で自殺者が増加しています。
自衛隊イラク派兵の経過
日本は、2004年から2006年にかけて、「復興支援」のためにイラク南部のサマワに約5600人の自衛隊員を派遣しました。
自衛隊イラク派遣の経過(肩書は当時)
【2003年】
3月20日 イラク戦争開始
7月26日 イラク復興支援特措法が成立
【2004年】
1月19日 陸自先遣隊がサマワで駐留開始
2月8日 本隊サマワ入り
3月3日 空自が空輸開始
4月7日 宿営地近くに初の迫撃弾、以降迫撃弾相次ぐ
10月22日宿営地にロケット弾が初着弾、以降ロケット弾攻撃も相次ぐ
【2005年】
6月23日 サマワの陸自車列近くで爆弾爆発、車両破損
【2006年】
1月22日 サマワで英軍と武装勢力が銃撃戦。戦闘拡大
5月20日 イラク正統政府発足
5月31日 サマワで陸自とオーストラリア軍の車列に爆弾攻撃
6月20日 小泉純一郎首相が撤収表明
7月17日 陸自撤収完了
(2023年3月26日付中日新聞より引用)
上記の経過のとおり、改めて振り返ってみると、当時のサマワの現地の過酷さを想像して粛然とした気持ちになります。
帰国後の自衛隊員と米兵の自殺者
自衛隊員の自殺者
2023年3月26日の新聞報道によると、イラクでの活動からの帰国後、21人の自衛隊員が自殺により亡くなられているということです。この数は、日本人の自殺率(10万人あたり17.5人、2022年)よりはるかに高い数字であると言えます。
しかし、同報道によれば、防衛省は隊員の派遣と自殺の因果関係は不明との立場をとっているということです。
米兵の自殺者
一方、2021年のアメリカのブラウン大学のレポートは、2001年の9.11同時多発テロ以降の戦争で3万177人の米兵や退役兵が自殺で亡くなったと報告しています。
この数は、戦闘で死亡した兵士7057人を大きく上回っており、また、一般的なアメリカ国民の自殺率よりも高いことを指摘しています。
9.11以降に顕著な自殺の要因
ブラウン大学のレポートは米兵・退役兵の自殺の原因について、トラウマやストレス、軍隊の文化やトレーニング、銃へのアクセスの継続、市民生活への統合の困難さといった、いかなる戦争にも共通する要因と共に、9.11以降の戦争に起因する要因を以下のとおり挙げています。
9.11以降の戦争に起因する要因
- 簡易爆発装置の使用増加の影響(道路脇での爆破や自爆攻撃など)
- 外傷性脳挫傷の増加
- 戦争の長期化
- 医療や治療が進歩したことによる軍役の長期化
- 9.11以降の戦争へのアメリカ国民の無関心
さらにレポートは、今日の紛争に関わる米兵のメンタルヘルスの管理について、アメリカ政府と市民社会の取り組みが不十分であることも指摘しています。
翻って、私たちの国では自衛隊員の皆さんの精神的な苦悩やメンタルヘルスについてどのような取り組みがなされてきたのでしょうか。
今回の報道は、そうした問題について私自身が十分に関心を持てていなかったことに気づかされるものでした。
自衛隊員や米兵ばかりでなく、「有志連合」諸国の兵士たち、そして、彼らと対峙してきたイラクやアフガニスタンの戦闘員や民衆たちの間にも同様の苦しみがあることを想像します。