【アメリカ外交】米国家安全保障戦略の暫定的な指針のポイント

米国家安全保障戦略の暫定的な指針の構成

バイデン政権は2021年3月3日に国家安全保障戦略の暫定的な指針(Interim National Security Strategic Guidance)を公表しました。

The White House Interim National Security Strategic Guidance MARCH 03, 2021

指針はバイデン大統領のメッセージに続いて、次の4つの柱から構成されています。

Introduction(はじめに)
The Global Security Landscape(世界の安全保障情勢)
Our National Security Priorities(米国の国家安全保障の優先課題)
Conclusion(結語)

以下、大統領のメッセージと4つの柱についてそのポイントと思われる部分や私が印象に残った箇所を抜き出してみたいと思います。

バイデン大統領のメッセージ

バイデン大統領のメッセージは9つの段落に分かれています。ポイントとなるのは次の2つの段落だと思います。そこでは、アメリカの外交政策がアメリカとアメリカ国民の利益に資するものであることが強調されます。

※ 読みやすくするために適宜改行しています。

第2段落

世界は転換点を迎えている。世界の構造が変化しているのだ。新たな危機がわれわれの注意を喚起している。

パンデミックから気候変動、核拡散、そして第4次産業革命といった世界的な課題がその動きを早める今日において、確かなことが1つある。

それは、緊密な関係にある同盟国や友好国とともに共通の大義のために行動し、アメリカの国力をしっかりと再生することによってのみ、アメリカが国益を増進させ、普遍的な価値観を支えることが可能であるということだ。

第6段落

われわれはまた、これらの取り組み(※)を行うにあたり、世界をリードすることが自己満足を得るための投資ではないことをアメリカ国民にはっきりと示さなければならない。

世界をリードすることは、アメリカ国民が平和や安全、繁栄のうちに生活することを確立するものだ。これはわれわれにとって疑う余地のない利益なのだ。

※「これらの取り組み」とは、この前段で触れられている民主主義の再生、経済基盤の立て直し、国際的な機構におけるアメリカの地位の再確立、アメリカの価値観への支持、軍事力の現代化、外交優先の取り組み、同盟や友好関係の再活性化などの取り組みを指しています。

Introduction(はじめに)

上記のバイデン大統領のメッセージでも強調されていますが、Introductionでも繰り返し強調されるのは、アメリカの外交努力はアメリカ国民の利益につながるのだということです。アメリカ国民の安全と経済的利益の追求という目的については、バイデン政権も前トランプ政権も大きな違いはないように思われます。

しかし両者の大きな違いは、その目的の実現のためにトランプ前大統領が「アメリカ・ファースト」を掲げ、国家間の競争や切磋琢磨を強調したのに対し、バイデン大統領は、国力の強化に努め、同盟国や友好国、国際機構との連携を図り、国際社会での米国の指導的役割を再構築することを強調している点です。

Introductionは4つの段落に分かれていますが、ポイントとなるのは第2段落だと思います。

※ 読みやすくするために適宜改行しています。

第2段落

今日の世界を取り巻く状況は、アメリカがひきこもるのではなく、前を向いて進むこと、世界と積極的に関わることを求めており、それがアメリカの安全、繁栄、自由を保つことにつながるのだ。

そのためには国家の安全保障についての新しく幅の広い理解が必要となる。すなわち、アメリカの世界での役割は、アメリカ国内の国力と活力にかかっているという認識だ。

これには、多様性、活力ある経済、躍動する市民社会、革新的なテクノロジーの基盤、しっかりとした民主主義の価値観、幅広く親密な友好関係や同盟のネットワーク、そして世界で最も強力な軍事力といった国力のあらゆる資源を生かす創造的なアプローチが必要となる。

アメリカが取り組むべきことは、国内を立て直し、海外でのリーダーシップを再び発揮することにより、こうした強みがしっかりとしたものとなるようにすることだ。

そのような強みを得ることで、アメリカはあらゆる課題に立ち向かうことができる。

The Global Security Landscape(世界の安全保障情勢)

The Global Security Landscapeは6つの段落に分かれています。そのうち、第2段落から第6段落までの冒頭部分はそれぞれ太字で強調されています。そこに注目して見ていきます(※)。

※ 余談ですが、英文の論考では一般的に各段落の最初の一文ないし二文に、その段落の内容や主張を表すセンテンスが来ます。この項の段落はすべてそのような形式になっています。

第2段落:国境を越える今日の世界的な課題

Recent events show all too clearly that many of the biggest threats we face respect no borders or walls, and must be met with collective action.
近年の出来事がはっきりと示しているとおり、米国が直面する重大な脅威の多くは、国境や障壁を越えた、国家間の集団的な取り組みによって対処しなければならない性格のものだ。

ポイント解説
脅威の例として、パンデミックや他の生物学的なリスク、気候変動、サイバーやデジタル空間の課題、世界経済の変動、人道の危機、暴力的な過激主義やテロリズム、核や他の大量破壊兵器の問題が列挙され、これらは1つとして一国で対処できるものがなく、また米国を抜きにして効果的に解決できるものではないことが指摘されています。

第3段落:民主主義の苦境

At a time when the need for American engagement and international cooperation is greater than ever, however, democracies across the globe, including our own, are increasingly under siege.
アメリカの関与と国際協力がかつてなく求められるこの時に、しかしながら、米国内を含め、世界の民主主義は苦境にさらされつつある。

ポイント解説
自由主義的な社会が、腐敗や不平等、二極化やポピュリズム、法の支配への非自由主義的な攻撃、コロナ禍のもとで高まるナショナリズムや移民に対する攻撃によって脅かされていることが指摘されています。

また、民主主義諸国が、誤った情報やデマ情報、社会や国家間の分断を図る操作、国際的なルールの侵害などを用いる権威主義的国家の敵意ある攻撃を受けている実態も指摘されます。

こうした傾向を反転させるために、米国は国内の民主主義を立て直し、構造的な人種差別の是正に取り組み、移民国家としての期待に応えることで、世界への範を示すことが必要であり、それは米国の安全保障や繁栄、生活様式と不可分の関係にあることが主張されています。

第4段落:世界の権力構造の変化

We must also contend with the reality that the distribution of power across the world is changing, creating new threats.
われわれはまた、次の現実にも対処しなければならない。すなわち、世界の権力構造が変化し、新たな脅威が生み出されているという現実である。

ポイント解説
新たな脅威の現実としては、安定的で開かれた国際的システムに対抗しようとする中国、世界的な影響力を持とうと画策するロシア、地域を不安定化させるイランや北朝鮮、統治がぜい弱な国々や米国の国益を損ねる非国家主体、国内外で依然として脅威となっているテロリズムや暴力的な過激主義が列挙されています。

第5段落:行き詰まりを見せる国際機構

This work is urgent, because the alliances, institutions, agreements, and norms underwriting the international order the United States helped to establish are being tested.
この取り組みは重要だ(※)。なぜなら、米国がその設立に役割を果たした国際秩序の基になる同盟や機構、協定、慣習が試練にさらされているからだ。

※「この取り組み」とは、前段で述べられているところの、「米国がその強みを生かし、米国の利益と価値観を増進させ、あわせて、自由や安全、繁栄を享受する世界を創るための今後の国際政治を形づくること」を指します。

ポイント解説
現状において欠陥や行き詰まりを見せている国際システムについては、同盟国や友好国、また、同様の考えをもった国々や非政府組織などと協力し、国際的な協力のあり方を現代化することが必要だと述べられています。そのうえで、サイバー空間の脅威や気候変動、腐敗、デジタル権威主義といった今世紀の課題に対処する重要性が指摘されています。

第6段落:テクノロジー革命への懸念と期待

Finally, running beneath many of these broad trends is a revolution in technology that poses both peril and promise.
最後に、広範囲にわたるこうした変化のもとでの統治において鍵となるのは、危険と期待の両面をもつテクノロジー革命の存在である。

ポイント解説
世界の主要大国が、経済や社会、医療、コミュニケーション、軍事などあらゆる領域でAIや量子コンピュータ技術の開発競争、その他さまざまな分野でのテクノロジー開発競争にしのぎを削る状況が述べられています。

一方で、こうしたテクノロジー革命の法的基盤や慣習が十分に確立されていないため、国際社会が不安定化する懸念についても指摘されています。

このような状況のもとで、米国が科学とテクノロジーの最先端を維持するために再投資するとともに、テクノロジーの進展に応じた国際的なルールの確立に向けて同様の考えをつ国々と協力して取り組むことの必要性が主張されています。

そして、こうした変貌する世界の安全保障情勢を踏まえたうえで、米国は外交政策および国家安全保障において、国内政策と同様、新たなコースを描いて取り組まなければならないとしています。

Our National Security Priorities(米国の国家安全保障の優先課題

この項では原文で14ページ(34段落)にわたって米国の安全保障政策の優先課題が説明されています。しかし、「優先課題」と銘打たれているものの、その内容は非常に広範囲で、原文において太字で強調されている部分も多岐にわたります。

この項ではとりわけ、アメリカ国民の安全と経済的利益の確保、同盟国や友好国との関係の強化に基づく米国の国際的なリーダーシップの再構築、そして、中国の脅威への対処が意識されているように感じられます。

また、第15段落に示された「終わりなき戦争」への関与を終わらせることや「米国のプレゼンスはインド太平洋地域とヨーロッパにおいて最も確かなものとする」という件も強く印象に残ります。

以下、それぞれの段落をごく簡潔に要約し、概観をつかんでみたいと思います。

第1段落:米国民の安全の確保

米国民の安全を守ることが何よりも重要だ。そのためには、国民、経済、防衛、民主主義といったアメリカの強みを守り育むこと、敵国が米国や同盟国の脅威となることや世界の公共圏や重要地域で影響力を行使することを防ぐこと、民主的な同盟や友好関係、多国間の機構やルールに基づく安定的で自由な国際システムをリードすることが必要だ。

第2段落:NATOや豪・日・韓との関係

安全保障は、米国単独では達成できない。したがって、NATOやオーストラリア・日本・韓国および他の友好国との関係を再構築する。また、脅威に対して同盟国が同様の責任を負担し、それぞれの強みを持てるよう促す。

第3段落:インド太平洋・西半球・EU・英との関係

インド太平洋、ヨーロッパ、西半球との関係を深めることは米国の強みを増すことにつながる。インド、ニュージーランド、シンガポール、ベトナム、他のASEAN諸国、太平洋諸島の国々、EUおよびイギリスとの関係をさらに強化する。

第4段落:カナダ・メキシコ・ラテンアメリカ諸国との関係

西半球では、隣国のカナダやメキシコとの関係が重要だ。また、ラテンアメリカやカリブ海諸国の諸問題解決の支援に向けて、連邦議会と協力して取り組む。

第5段落:イスラエルおよび中東諸国との関係

中東においては、イスラエルとの強固な関係の維持、イスラエルとパレスチナ間の実現可能な問題解決の促進、イランの攻撃的行動の抑制、アルカイダやISISなどのテロリストの抑え込みに努める。軍事力の行使が中東地域の問題解決の答えではない。米国は中東地域の緊張緩和と中東の人々が自らの希望を実現できる支援を行う。

第6段落:アフリカ諸国との関係

アフリカ諸国との友好関係の構築に引き続き取り組み、同地域での市民社会への投資と長期にわたる政治的、経済的、文化的関係の強化に取り組む。

第7段落:気候変動と温暖化対策

米国はこの課題において、国際協力に努める。既にパリ協定に復帰し、この課題に対応する大統領の特別大使の職を置いた。米国はクリーンエネルギーへの転換や二酸化炭素の排出量削減に向けてリーダーシップを発揮する。

第8段落:コロナと世界的な医療・健康

米国はコロナウイルスや今後のパンデミックの脅威、世界的な医療・健康のための安全保障に向け、国際協力の取り組みに参加する。WHOなどの取り組みにおいてリーダーシップを発揮する。

第9段落:世界的な開発支援

世界の生活水準の向上は米国の国益に大きな利益をもたらす。米国は世界的な経済の発展や社会生活の向上に向けた開発や支援の取り組みに積極的に取り組む。

第10段落:国際組織への財政支援

米国は国連や他の国際組織への財政支援に取り組む。効果的な国際協力と組織改革のためには米国が再びリーダーシップをとることが求められる。国際的な組織が権威主義的な計略ではなく、国連のシステムを支えてきた普遍的な価値観や大きな志、慣習を反映し続けることが極めて重要である。

第11段落:核軍備管理

核軍備管理においては、核兵器の役割を減らす努力をすすめる一方、核抑止力の効果と信頼性を維持する。核軍備管理や軍事技術の開発において、ロシアや中国との対話を進める。

第12段落:核拡散の防止

核拡散防止に向けた米国のリーダーシップの再構築を図る。イランの核開発プログラムなどの問題に取り組むための外交努力を追求する。北朝鮮の核問題については外交官の体制を強化するとともに、韓国・日本と協力して取り組む。

第13段落:軍事力の行使

外交を第一としつつも、強力な軍事力がアメリカの決定的な強みであることに変わりはない。米国は国益を守るために軍事力を用いることをためらわない。軍事力の使用にあたっては、使命とその達成が明白であること、シビリアンコントロールのもとに置かれること、さらに、国際的な取り組みに沿い、正当性と効果を得られることが必要だ。

第14段落:防衛予算

米国は防衛に携わる自発的な国民の力とその家族への投資を第一とする。世界で最も訓練され装備の充実した軍事力を維持する。中国やロシアがもたらす脅威に対抗するために、最新の軍事テクノロジーと能力の開発、そのための人材の育成、そうしたテクノロジーの責任ある使用に向けた倫理的基盤の確立に努める。テロや非通常戦(unconventional warfare)、グレイゾーンでの紛争に備える準備と能力を維持・発展させる。

第15段落:終わりなき戦争

米国は数千の米国民の命を犠牲にし、数兆ドルの予算を投じてきた「終わりなき戦争」に関与を続けるべきではなく、また将来においてもそうすべきでない。アフガニスタンでの米国史上最も長い戦争に責任をもって終止符を打つために努力する一方、同国が米国に対するテロの温床地帯とならないようにする。米国のプレゼンスはインド太平洋地域とヨーロッパにおいて最も確かなものとし、中東においては、イランやテロリストの脅威、米国の国益に応じた適切な規模とする。これらの調整においては、米国人員の安全および同盟国・友好国との緊密な連携を考慮する。

第16段落:貿易・経済政策

今日の世界において経済の安全保障は国家の安全保障であり、米国民とりわけ労働者階級の国民の生活は国家安全保障戦略の中心である。また、アメリカの中産階級は米国の屋台骨であり強みである。貿易と経済政策は一部の特権的な階級のみではなく、中産階級や中小企業をはじめ、すべてのアメリカ国民の利益に資するものでなければならない。貿易政策は米国の中産階級を育て、新たな仕事を創出し、給料を上げ、地域社会を強化するものでなければならない。米国民の暮らしの向上を第一とし、それにつながる国際的な貿易・経済のルールの確立に取り組む。

第17段落:コロナと国内医療・経済

米国が世界において主導的役割を果たすためには、国内の再建が必要であり、何よりもまず、コロナウイルス感染症によって損なわれた国内の医療・健康と経済を立て直すことが喫緊の課題である。

第18段落:長期的な医療・感染症対策

コロナウイルス感染症対策とともに、今後の感染症などの課題に対し、長期的な視点に立った備えが必要である。米国は世界的な感染症対策でリーダーシップを発揮するとともに、米国の医療・健康に関わる備蓄やサプライチェーンにおいて、海外に依存しすぎることがないよう見直していく。

第19段落:労働条件の改善

米国のより良い再建に向けては、アメリカの労働者とその家族の暮らし・労働条件の改善が必要だ。より良い賃金や給付、集団的な交渉、平等で安全な労働環境の確立が必要だ。

第20段落:クリーンエネルギー

気候変動の危機によってもたらされるリスクを取り払うためにも、公正でクリーンな、耐性のある将来のエネルギー社会を確立することが強く求められている。脱炭素社会の実現に向けて電気自動車や再生エネルギーなどのテクノロジー開発に投資し、あわせて、仕事と雇用の創出、世界経済の発展に寄与する。

第21段落:科学・テクノロジー・宇宙

米国は最先端の科学とテクノロジーを国民生活の向上に役立てる。経済、医療、バイオテクノロジー、エネルギー、気候変動、安全保障などの分野で科学とテクノロジーの活用を図る。これを支える人材の育成に向けて、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のSTEM教育に力を入れる。また、インセンティヴのある移民政策を通じて優秀な人材の確保に努める。21世紀のデジタルインフラである高速インターネットへのアクセスや5Gネットワークを構築する。宇宙の探索と利用を通じて人類の利益と安全保障に貢献する。

第22段落:サイバーセキュリティ

サイバーセキュリティは最も優先度の高い課題である。政府と民間が協力し、安全なネット環境を構築する。同盟国や友好国とともに、サイバー領域における国際基準の確立を図る。サイバー攻撃の責任の所在を明らかにし、断固たる措置を取る。

第23段落:米国の民主主義

米国内の民主主義を再活性化させる。民主主義、平等、多様性は米国の強みの源泉だが、所与のものではない。有権者や市民権の抑圧の問題に取り組む。政府の透明性と説明責任を果たし、腐敗の一掃や政治をゆがめるマネーの問題に取り組む。法の支配、権力の分立と司法権の独立、また、警察、インテリジェンスコミュニティ、外交官、公務員、軍などにおいて、政党にとらわれない公務を執行させる。言論の自由、報道の自由、表現の自由、その他の市民の権利と自由の重要性を再確認する。

第24段落:人種間の平等

コロナウイルス感染症によるパンデミックと経済の危機に直面している現状にあって、人種間の平等を進めることなしに米国の再建はなしえない。警察、司法制度、選挙権の確保に関する改革が必要である。さらには、富、健康、教育の格差などの原因となっている構造、政策、慣行などの課題に向けた大胆な取り組みが必要である。

第25段落:難民支援

移民国家であるアメリカは難民を救済する役割を果たさなければならない。前政権による難民家族の分離や差別的な入国制限を見直す。南部国境の問題は簡単に解決できないが、米国の価値観に基づき、安全で公正なプロセスをつくる。

第26段落:暴力的過激主義

政治的意図に基づく暴力的な過激主義は認められない。しかし、過激主義は米国民への脅威として依然として存在する。そうした国内外の脅威に対して、連邦政府は州政府など他の公的領域や民間部門、諸外国とも協力し、あらゆる手段を通じて対処する。取り締まり、インテリジェンス、情報の共有がきわめて重要である。

第27段落:権威主義

世界で広がりつつある権威主義に対し、民主主義を再活性化するために、同盟国や友好国と協力して取り組む。民主主義を攻撃する国境での侵略行為、サイバー攻撃、デマ情報、デジタル権威主義といった問題に対処する。また、権威主義国家が用いる民主主義国家における内部からの侵食に対処するためにも、腐敗の防止が必要である。人権の擁護や差別などの問題にも取り組む。富の不平等、テロリストへの資金調達、外国の影響力の増大につながる租税回避や違法な資金の流れを取り締まる。民主主義の価値観と利益を守り、同盟国や友好国との間の幅広い協力を確かなものにするために、国際的な民主主義サミットを開催する。

第28段落:中国の脅威 ①

この指針に掲げた政治課題は、中国との戦略的な競争に打ち勝つためのものでもある。民主主義を再活性化し、米国への信頼と国際的なリーダーシップを取り戻すことで、中国ではなくアメリカが世界をリードする。米国の同盟国・友好国との関係を維持・強化し、防衛に力を注ぐ。中国の脅威に対抗し、その攻撃的な行動を抑止する。

第29段落:中国の脅威 ②

中国の脅威に対峙するためには、米国の強みを再活性化するだけでは十分ではない。不公正で不法な貿易、サイバー領域での盗用、経済的強要に対処しなければならない。安全保障と医療に関わるサプライチェーンの確保にも努める。国際法のもとでの航海の自由と領空通過権を守る。外交・軍事を通じ、同盟国を守る。中国の近隣諸国や通商国の独立性を支持する。地域開発を促進し、地域における中国の不当な影響力を阻止する。民主主義、経済、安全保障のパートナーである台湾を支援する。米国企業が中国でビジネスを行う際にアメリカの価値観を犠牲にさせない。香港、新疆ウイグル自治区、チベット自治区における民主主義、人権、人間の尊厳を擁護する。これらの課題において、同様の考えを持つ諸国とともに共通のアプローチをもって対処する。

第30段落:中国との協力

米国の国益に適う場合には、中国との協力を排除しない。気候変動や国際医療、軍備管理、核兵器やその他の大量破壊兵器の拡散防止などの課題において、中国政府との協力を歓迎する。その際、米国の同盟国・友好国との結束をもって臨む。

第31段落:安全保障の機構と人員

効果的な国家安全保障戦略の遂行には専門的知識および情報に通じた判断が必要である。近年、米国の安全保障に携わる機構と人員の経験、規範、プロフェッショナリズムは試練にさらされている。安全保障の課題としてこの問題に早急に取り組む。

第32段落:安全保障の人的資源

安全保障の人員が安全かつ効果的に業務を遂行できるようにする。公務員、軍人、外交官、開発専門家、インテリジェンスのスタッフなどの人的資源の強化、また、次世代の安全保障の専門家の採用や維持に努める。人員の多様性や民間部門からの登用を進める。今日の複雑な課題に応じた機構や革新的な取り組み、テクノロジーの活用を図る。

第33段落:外交・開発・インテリジェンスへの予算

米国は軍事力への過度な依存を避け、安全保障の予算を外交や開発の新たな資源に向ける。インテリジェンスコミュニティへの投資を通じ、政策立案、機会の特定、脅威の除去のための時宜にかなった分析や警告を提供できる能力の強化を図る。

第34段落:専門の知識・人材

安全保障の各領域に境界を引くことは意味をなさなくなってきている。こうした新たな現実を考慮した機構の見直しと改革を進める。科学、テクノロジー、工学、数学、経済学と金融、重要言語と重要地域の専門知識を備えた人材を確保する。連邦政府はこうした専門知識や技術を備えた人材の活用に向けて、他の公的な領域や民間部門と協力を図る。多様な領域・組織・人材をまたぐ政策の策定と、そうした政策の実行を調整する新たなメカニズムを開発する。

Conclusion(結語)

短い結語ですので全文を引用します。

※ 読みやすくするために日本語訳は適宜改行しています。

This moment is an inflection point. We are in the midst of a fundamental debate about the future direction of our world. To prevail, we must demonstrate that democracies can still deliver for our people. It will not happen by accident – we have to defend our democracy, strengthen it and renew it. That means building back better our economic foundations. Reclaiming our place in international institutions. Lifting up our values at home and speaking out to defend them around the world. Modernizing our military capabilities while leading with diplomacy. Revitalizing America’s network of alliances, and the partnerships that have made the world safer for all of our peoples.

時代は今、転換点を迎えている。未来の世界の方向性について、根本的な議論が戦わされているのだ。これに打ち勝つために、民主主義の体制が人類にとっての福利であり続けることを米国は示さなければならない。

しかし、それは偶然によって起こるものではない。米国は民主主義を擁護し、強化し、刷新していかなければならない。

それには経済基盤の再建が必要である。国際機構における米国の主導的立場を取り戻すことが必要である。米国の価値観を国内において見直し、それを世界中で擁護し広げることが必要である。

軍事力を現代化する一方、外交を主導することが必要である。アメリカの同盟と友好関係のネットワークを活性化し、世界をすべての人々にとって安全なものにすることが必要である。

No nation is better positioned to navigate this future than America. Doing so requires us to embrace and reclaim our enduring advantages, and to approach the world from a position of confidence and strength. If we do this, working with our democratic partners, we will meet every challenge and outpace every challenger. Together, we can and will build back better.

こうした未来を導くのはアメリカをおいて他にない。そうするために、米国は自らの揺るぎない優位性を維持・再構築し、信頼と強さを持って世界にアプローチすることが必要である。

こうした取り組みを民主的なパートナー諸国とともに協力して行うならば、すべての課題に対処し、あらゆる挑戦者をしりぞけることができるだろう。そうすれば、米国は必ずや再建されるはずである。

出典:The White House Interim National Security Strategic Guidance MARCH 03, 2021

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バイデン政権の優先的な外交課題については、上記の指針が公表されたのと同じ日に米国務省のウェブサイトに掲載されたブリンケン国務長官の演説において8つの課題が示されています。それらは上記指針の優先課題とも重なるものです。

当ブログ2021年3月5日付「8つの課題と軍事介入の教訓‐米国家安全保障戦略の指針を踏まえたブリンケン国務長官の演説」をご覧ください。

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