【アフガニスタン】タリバンが向き合う困難

Foreign Affairsのウェブサイトに2021年8月23日付で下記の論考が掲載されています。

How Will the Taliban Rule?
Governing Afghanistan Is More Difficult Than Conquering It

どうなる?タリバンによる支配
征服以上に困難なアフガニスタンの統治

論考は、タリバンがアフガン国内や近隣諸国からの一定の支持を得て統治を進めると予測する一方で、彼らが今後向き合うであろう統治の困難さもまとめています。

論者はカーター・マルカシアン。『The American War in Afghanistan』(2021)の著者で、2015~19年に米国統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォードのシニア・アドバイザーを務め、2009~11年にはアフガニスタンのヘルマンド州で米国務省の高官として勤めた経験のあるアフガンの専門家です。

以下、タリバンが向き合うであろう困難をまとめた論考の後半部分を要約してみます。

部族間の対立

アフガニスタンの部族間の対立や確執はアフガンの統治にとってきわめて困難な課題であり、タリバンもその対処に苦労することになる。

土地や水の問題で、タリバンは自らの支持層である土地を持たない農民を支援しようとするが、地域の部族指導層にとっては、自らの支配基盤が崩される懸念がある。

前タリバン政権の1990年代がそうであったように、地域の部族指導層との対立は対処の難しい課題だ。

違法なケシ栽培と貧困

ヘロインの原料であるケシ栽培もまた、タリバンにとって対処の難しい課題だ。違法なケシ栽培からの徴税はタリバンの主要な収入源であるからだ。また、その栽培を認めることで貧困農民からの支持を得てきた。

この問題で、タリバンは近隣のイランや中国を含む国際的な批判と圧力を受けることになるだろう。ただし、ケシ栽培のタリバンにとっての政治的・経済的重要性に鑑みれば、そうした国際的な批判の影響は限定的であるかもしれない。

資金不足

タリバンが急展開の軍事的な勝利を得たことは、彼らが政治的妥結によって権力を掌握した場合に得られたはずの国際的な資金援助の機会を失うことを意味する。したがって、さらなるケシ栽培と中国からの資金援助に頼ることになる。

近隣諸国との関係

タリバンはこれまで、パキスタン、イラン、ロシア、中国といった近隣諸国との関係構築に取り組んできた。しかし、地域の状況を踏まえるならば、これらの国々がタリバンを支援し続けるとは考えにくい。

今後、いずれかの国がタリバンに異を唱え、対抗勢力を支援する可能性はある。

反政府活動

アフガン国内では既に反タリバンの動きも見られる(これまでの3か月ほどの反タリバン派の行動を見る限り、そうした動きが力を持つとは思われないが)。

また、アフガンにおける伝統的な戦い方はゲリラ戦であり、過去に、イギリス、ソ連、アメリカ、そして前タリバン政権もそうした戦いへの対処を強いられてきた。

過去から続く不安定

過去40年間、アフガンに安定をもたらした支配者はいなかった。

1989年のソ連の撤退、1996年の前タリバン政権による権力掌握、2001年の米国の介入、いずれにおいても、時を待たず暴力が再燃し、それはアフガン国内の分裂、険しい地形、乏しい資源、対処の難しい近隣諸国の問題などによって助長された。

今日においても、同様の不安定さが続くであろう。

-――-――

ということで、アフガン国内で一定の支持を得ているといわれ、グループ内の結束も他のアフガン部族やグループよりも強固とされるタリバンが、こうした困難にどう対処していくのか、注目ですね。

一方で、米軍撤退後、アフガンはテロ組織の温床となり、タリバンもそうした組織との関係を築くのではないかとの懸念もあります。

しかし、上記の論考ではこの点についての言及はありません。

他方で、この間の日本におけるアフガン報道や専門家の発言などを聞く限り、タリバンやアフガンの人びとの日本に対する期待感や信頼は高いようです

日本としては、タリバン政権に対し、テロや暴力の抑制、女性をはじめとするアフガンの人びとの人権の尊重を強く要請する一方、食料や医療などの人道支援、また経済や生活の基盤整備に向けた取り組みを支援していくことが必要なように思います。

米国留学中に私が席を隣りにしたアフガンからの女子留学生は、(おそらくは中村哲医師のリーダーシップの下での)用水路の建設によって蘇った農地の写真を私に見せ、「あなたの国の人びとがこれを実現したのよ」とうれしそうに語ってくれました。

彼女の父は女性の教育や権利の尊重に熱心でしたが、タリバンによって暗殺されたことも話してくれました。

「平和主義」を唱え、途上国の生活・経済支援にも積極的に関与してきた日本には、一方的な「国家建設」や「レジーム・チェンジ」ではない形で、アフガンの人びとに寄り添いながら、同国の安定と発展に協力できる力があるのではないでしょうか。

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