【アメリカ外交】退役軍人が求めるアメリカ外交3つの指針―日本が考えておくべきことは?

ダニエル・デイビスは、湾岸戦争、イラク、そしてアフガニスタンでの戦闘地域での活動を経験した退役軍人です。

現在は、リアリズムの立場から米国の外交政策を分析し提言する米シンクタンク Defense Priorities の上級研究員を務めています。

その彼が Washington Examiner のウェブサイトに2020年12月19日付で下記タイトルの論考を寄稿しています。

End decades of foreign policy disaster with principles that stand the test of time by Daniel Davis December 19, 2020 Washington Examiner(こちら
時の試練に耐える指針を用い、数十年にわたる外交政策の失敗を終わらせよ ダニエル・デイビス 2020年12月19日 ワシントン・イグザミナー

ダニエル・デイビスが提起するアメリカ外交3つの指針

彼は論考の中で次の3点を提起しています。

  • 米国の安全保障に関わりのない小さな戦争への関与の縮減・廃止
  • 現行の終わりなき戦争の終結
  • 重大な危機をもたらす可能性のある敵への焦点化

What we need is a policy based on three key principles: Reduce or eliminate engaging in small wars disconnected from U.S. security interests, end all our current unnecessary forever-wars, and strengthen our national security by focusing on the adversaries who may one day pose an existential threat.
米国が必要とするのは3つの主要な指針に基づく政策である。すなわち、米国の安全保障の国益に関わりのない小さな戦争への関与を縮減もしくは取り除くこと、必要のない現行の終わりなき戦争をすべて終結すること、将来に重大な危機をもたらす可能性のある敵に焦点を当てることにより米国の安全保障を強化すること。

ということで、上記3つの指針に基づく外交政策を行うことで、米国は経済的に繁栄し、国家としての安全保障を確実なものにできるというのがデイビスの主張です。

そして、ブッシュ(子)、オバマ、トランプの外交政策の失策を来るバイデン政権は修正すべきだとしています。

なお、論考のタイトルにある「時の試練に耐える指針」の例として、ハンガリー動乱時のアイゼンハワー政権の態度、キューバ危機でのケネディ政権の対応、そして、レバノン内戦におけるレーガン政権の姿勢が取り上げられており、いずれにおいても、米国の安全保障と海外での武力行使のバランスを考慮しつつ、米国が戦争に巻き込まれることを避けた事例として考察されています。

デイビスは他の論考においても一貫して、米国がその比類なき軍事力と核抑止力によって国家としての安全が守られていることを強調すると共に、アフガニスタンのような終わりなき戦争において米国の兵士たちの命が奪われ、また、米国の国益が損なわれることを批判し続けています。

日本にとっての意味合い:例えば、尖閣諸島は?

尖閣は日米安保条約の「適用範囲」に安心してよいか

デイビスのような主張や、彼が属するリアリズムを提唱するシンクタンクDefense Prioritiesが、アメリカの政権や議会にどれだけの影響力を持っているかはわかりません。

しかし、もし仮にこうした主張が米国の外交政策に影響を持つとしたら、例えば、日中の間で懸案となっている尖閣諸島の問題は米国にとってどのように位置づけられることになるのでしょうか

日本政府とアメリカ政府の間では、米国の対日防衛義務を定めている日米安全保障条約第5条を尖閣諸島に適用することが機会あるごとに確認されています。

しかし、尖閣有事の際に、それがデイビスの言うような「米国の安全保障に関わりのない小さな戦争」とアメリカ国民が感じ、米政権や議会もそうした国民感情を無視できないと判断するに至るとすれば、我が国にとっては厳しい事態となることもないわけではありません。

「日米同盟」に気を配りつつも倚りかかってばかりはいられない

アメリカ国民からすれば、「中国は米国の国益にとって最大の脅威」だとしても、北米大陸からはるかに遠い東シナ海に浮かぶ小島群(豊かな漁場であり、海底には資源が眠るとも言われていますが)をめぐる日中の紛争で、自分たちの息子や娘、夫や恋人を失いかねないことは納得しがたいことだと思うのです

いざという時に米国がためらいを見せるようであれば、日本ばかりか、韓国やフィリピン、台湾などからの信頼も失うことにつながりかねないため、米国が手をこまねくことは考えにくいかもしれません。

しかし、国と国の同盟関係は「友情」によって結ばれているわけではありません(TPP締結交渉からの米国の離脱を思い出してください。日本からすれば、「はしごを外される」ような出来事でした)。

また、デイビスのような主張はアメリカの歴史からすれば、外国との永続的な政治関係を戒めた初代大統領ワシントンの辞任挨拶をあげるまでもなく、特異なものではありません(ワシントンの辞任挨拶についてはこちらも参照してください)。

武力の行使に格段の制約を設けている我が国においては、良好な日米関係を維持し、有事の際に米国の支援が得られるよう常に確認し気を配りつつも、中国との関係や他の諸国との関係もできうる限り考慮し、尖閣有事のような事態が決して訪れることのないよう、政治、外交、経済、社会、文化、インテリジェンスのあらゆる面で手を尽くしていくことが必要ではないでしょうか。

追記

ダニエル・デイビスが2020年9月に自費出版した下記の著書を読みました。

The Eleventh Hour in 2020 America
How America’s foreign policy got jacked up – and how the next administration can fix it

岐路に立つ2020年のアメリカ
アメリカの外交政策はいかに持ち上げられ、次の政権はそれをどう修正しうるか

この本は、米国の軍事的・政治的指導者たちが説明してきたテロとの戦いにおけるアフガニスタンでの戦争が成果をもたらしているとの言説と、デイビス自身が経験したアフガンの現場の実態のずれを告発しています。

そして、その終わりなき戦いにおいて多くの米国の兵士の命が危険にさらされ続けてきたことを批判し、戦争の早期の終結を求めています。

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