【ロシア/中国】ロシアと中国による影響活動-独・英・日・豪の事例

アメリカのシンクタンクCSIS(Center for Strategic and International Studies、戦略国際問題研究所)が2020年7月1日付で「Countering Russian & Chinese Influence Activities(ロシアと中国の影響活動への対抗)」というレポートをウェブサイトで公表しています。

CSIS July 1, 2020 Countering Russian & Chinese Influence Activities
Heather A. Conley, Rachel Ellehuus, Timothy Kostelancik, Jeffrey Mankoff, Cyrus Newlin, Amy Searight, & Devin Stewart(こちらからどうぞ)

伝統的な政府間外交に対し、直接的または間接的なさまざまな活動を通して外国の市民や社会に働きかけ、自国の国益の増進につなげる外交活動をパブリック・ディプロマシーと呼びます。

こうしたパブリック・ディプロマシーには情報操作やプロパガンダなどの影響活動や、それへの対抗措置も含まれます。

CSISの上記のレポートは、ロシアと中国による民主主義国家をターゲットにした情報操作などの影響活動の特徴について、ドイツ、イギリス、日本、オーストラリアをケース・スタディとして考察しています

同レポートは、開かれた情報空間を持つ民主主義の特質が外国からの情報操作にぜい弱であること、しかし、透明性、法の支配、報道の自由のような強みを生かして民主主義国が互いに協力し学び合うことで影響活動に対抗できると主張しています。

私はワシントンD.C.留学中にアメリカの外交政策を専攻しましたが、選択必修科目として「プロパガンダ」、「インテリジェンス」、「安全保障」などのクラスを受講しました。そこでは、ロシアや中国の情報活動(影響活動)の基本的事項についても学びました。

クラスメイトの大半は米国人で、その多くが卒業後は外交、安全保障、国際政治に関わる仕事に就くことを目指していたため、ロシアや中国のそうした活動について知識を身に付けることは必須のことであったと思います(もちろん米国によるそうした活動についても)。

では、このCSISのレポートのポイント部分を訳してみたいと思います(一部、抄訳または要約しています)。

目次

はじめに

※ この項では、ロシアや中国による影響活動が近年鮮明になっていることをふまえ、民主主義諸国に脅威をもたらすそうした影響活動について学び、対処していくことの意義が語られています。

近年、ロシアと中国による民主主義国での有害な影響活動が鮮明になってきている。2020年、COVID-19のパンデミックは、モスクワや北京が、デマ情報や他の影響活動を通じ、地政学的な目標を前進させる新たな機会を作り出している。この課題に対する公の関心の高まりにもかかわらず、各国政府は対応に苦慮している。

マルコム・ターンブル前オーストラリア首相が作った「3 Cs(covert, coercive, or corrupting)」のフレームワークは、「有害な」影響活動を、秘密の、威圧的な、不健全な活動と定義している。これらの影響活動によって、ターゲットとされた国の通常の民主的なプロセスは、以下のようにして混乱させられている。

1.世論を操作する、
2.選挙制度の信頼性を傷つける、
3.政策の展開を偏らせる、
4.政策的・戦略的目標を前進させるために市場を混乱させる。

これらの活動は概して、不透明で、法の支配の外にあり、自由民主主義の慣習に逆らうものだ。秘密の、威圧的な、不健全な活動は、透明で開かれた形で実施される正当または有益なパブリック・デモクラシーの営みとは異なる。

多くの研究機関がロシアと中国の影響活動の背後にある戦略と戦術を詳しく述べ、細かく調べている。我々の研究は、ロシアと中国の活動が民主的な政体でいかに展開し、政府と社会がいかに対処するかを理解することに焦点を当てている。諸国が中国やロシアの有害な影響活動に著しく脆弱な要因は何か。民主的な政府と政体が、世論と政治的プロセスをゆがめる有害な活動を和らげ、回避し、もしくは押し返すことができる復元力の源は何か。中国とロシアは、活動を通じて、政治的な結果に影響を与えることにどの程度成功してきたのか。

外国による影響活動は、民主主義諸国への共通の脅威をもたらすが、その方法は異なる。CSISは、ドイツとイギリスでのロシアの影響活動、および日本とオーストラリアでの中国の影響操作を考察した。その事例は、モスクワと北京の手法の共通点だけでなく、異なる目標と戦術を際立たせている。その事例はまた、特定の国において、どの手段と戦術が最も効果的であり、それがなぜなのかについても示している。

ロシアによる影響活動の目的と手段

※ ロシアが国営メディアやソーシャル・メディアを通じて、民主主義国家内や民主主義国家間に分断をもたらそうとしている活動が考察されています。

ロシアは、相対的な強さを保持するためのコスト効率の良い手段として、民主主義国家内と民主主義国家間に分断を作り出し、モスクワにとって好ましい政策と状況を促進させることによって競争相手を弱体化させようとしている。

クレムリンはこの目標を達成するために不法な融資と買収のような古くからある影響活動の手段を使い続ける一方で、情報空間での自らの能力を高めてきた。

ロシアの影響活動は、単一の主体によってではなく、クレムリンからの自律の程度が異なる、多数の、しばしば競い合う主体によって画策されている。

国営メディアのスプートニクとロシア・トゥデイは、国が支援する情報発信に関わっている。この情報発信は、オンラインのボットやトロールによって増幅される。それらは、公式に国が支援する場合もあれば、国に仕える独立した主体として活動する場合もある。

ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のようなロシアのインテリジェンス・サービスは、主流の民主的な言説に入り込むことを目的に、非主流の出版において「ハッキングやリークによる」ストーリーや偽情報を仕掛ける。

その結果生まれるストーリーは、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)やターゲットにされた国のオンライン・ネットワークのようなソーシャル・メディアで増幅される。

ドイツの場合

※ ドイツ国内のロシア出身者や旧東ドイツ出身者、ロシアと関係をもつビジネスエリートたちがロシアによる影響活動のターゲットになりやすいことが指摘されています。

ドイツはロシアの影響活動のターゲットである。なぜなら、ドイツはヨーロッパ統合の中心を担い、経済的・政治的な影響力を持ち、ロシアとの間には長い歴史的・文化的な関係があるためだ。

しかし、ドイツの比較的高いレベルの政治的・社会的な結束と合意のもとでは、ロシアの影響活動の効果は限定的なものだ。

移民問題を利用した情報操作のようなドイツの政治・社会の分断を図ることを目的とするロシアの影響活動も、その影響力は限られている。

ドイツで生活するロシア生まれの300万人の移民とその子どもたちは「アウトサイダー」としての立場を維持し、ロシアのメディアや文化に親近感を持っている。同様に、旧東ドイツ出身の市民たちもドイツの主要な政治的言説の流れとは一線を画している。

ロシア生まれの移民や東ドイツ出身の市民はEUに懐疑的な傾向があり、民族的・宗教的マイノリティや移民に対してより敵対的である。彼らは極右や極左を支持する傾向があり、ロシアによる影響活動の主要なターゲットになることもあった。

ドイツはロシアにとって経済的な影響活動の主要な手段でもある。貿易の総量は小さいが、ドイツはロシアのエネルギーに依存し、ヨーロッパの天然ガスの流通拠点の役割を担い、主要なドイツ企業にロシア関連ビジネスの集中が見られるからだ。こうしたことが、ロシアに親和的な政策を導く「捕らえられた」ドイツのエリートたちを生み出す可能性がある。

イギリスの場合

※ ブレクジット、スコットランドの分離問題、北アイルランドの緊張といった社会的な分断をもたらしかねない問題や、法的規制のない非公共のメディアがロシアによる影響活動のターゲットになりやすいことが指摘されています。

イギリスはロシアの影響活動の主要なターゲットである。なぜなら、イギリスは政治的・経済的・軍事的に強力で、米国との親密な関係があるからだ。

ロシアの影響活動はブレクジットの国民投票においてイギリス社会の分断を増幅することに集中した。イギリスは文化や社会の分断から生じる政治的両極化が、特にブレクジットをめぐって顕著になった。

ロシアは反エリート感情を利用するために、そして移民やイギリス「文化」(とりわけイングランド「文化」)の侵食への恐れを増大させるために、この両極化を使った。

スコットランドの分離派や北アイルランドの緊張は、ロシアの情報操作にさらなる機会をもたらしている。

ロンドンのシティおよび海外におけるイギリスの税金センターは、相当なロシアの資金を集めている。しかし、イギリスとロシアの経済関係は、ドイツとロシアの間のそれよりもずっと小さく、そのためモスクワとのより良い関係を支持するビジネスのロビー活動には至っていない。

イギリスの法規制では公共放送の公平性が求められている。しかし、非公共のオンラインニュースには法的規制がない。政治広告においても虚偽や誤解を招く情報についての禁止はない。イギリスの商業紙は非常に党派的である(だから、イギリスのメディアにおいては、ロシアによる情報操作を有害として排除するには至らない)。

ロシアの影響力

※ この項では、上記を踏まえてロシアによる影響活動がまとめ直されると共に、ドイツとイギリスの対抗的取り組みが言及されています。ドイツ、イギリス共に公共放送への信頼がロシアの情報操作への対抗の役割を果たしていることが指摘されます。

ドイツ、イギリス両国ともに、伝統的なメディアに対する大衆の信頼の高さが、他国による情報操作に対する免疫の源である。

ドイツ人の3分の1近くが国営のARDネットワークのイブニング・ニュースを見ている。一方、イギリスでは思想的背景をまたぐ成人の約50パーセントがニュースの主要な情報源としてBBCに頼っている。

民間報道機関は明確な許認可と監督機構を持っている。ロシア・トゥデイやスプートニクのようなロシアが国として支援する報道機関はドイツ、イギリス両国に存在し、国民の特定部分をターゲットにしている。しかし、主流の政治的言説への影響はほとんどない。

しかしながら、両国共に、情報源として規制の弱いソーシャル・メディアへの依存が高まっており、課題が増大している。

ロシアは概して、ドイツよりもイギリスでの影響力の行使が弱い一方で、イギリスでのロシアの情報操作は、より破壊的であることが明らかになっている。

この結果は、ロシアの活動の結果というよりも、ブレクジットをめぐる鋭い社会的な分断と規制の弱いオンライン・メディアとタブロイド紙の状況によるものだ。ドイツでは、文化的亀裂を利用し極端な政治的アクターを助長させるモスクワの活動はほとんど失敗している。

イギリスはますます、安全保障のレンズをとおして影響活動を見るようになっている。イギリスは、経済的レベル、軍事資源、広範囲な外交努力を含め、その能力の全領域を活用する強固な「政府一体」の対応を配備してきている。

しかしながら、個々の偽情報の事例への対応よりも、イギリスはその努力を大きな影響を持つ可能性のある選挙への干渉のような有害な影響活動への対応に集中させており、また、広範囲なメディア・リテラシー・プログラムも実行してきた。

ロシアの情報操作に対するベルリンの対応は、防衛的なものというよりも、事実に基づく情報を重視する対抗的なストーリーを生み出すことに重点が置かれている。

この手法は、ドイツ国民の政府に対する高いレベルの信頼と、社会的なコンセンサスに掛けられた保険から恩恵を得ているもので、そのことが、ドイツがあるレベルの偽情報と上手く共存することを可能にしている。

中国による影響活動の目的と手段

※ 中国の影響活動がロシアとは異なり、偽情報よりも経済活動の影響力や強要を通じた検閲から成っていることや、中国中央統一戦線工作部が、中国人社会のネットワークを指導して影響活動に従事し、西側の協力者と関係を築くために活動していることが指摘されています。

中国は主として、グローバルな舞台での自身の台頭に対する好意的なイメージを育み、公の批判を弱めるために影響活動を使ってきた。

ロシアとは異なり情報空間での中国の活動は、伝統的に偽情報よりも経済活動の影響力と強要を通じた検閲から成っている。

中国による影響操作は、中央統一戦線工作部によって行われている。それは、中国共産党のよく知られた「魔法の武器」である。

中央統一戦線工作部は市民およびビジネスの協会ネットワーク、学生団体、中国語メディア、学術組織、政治家を指導し、それが、海外の中国系コミュニティを脅し、監視し、取り込むために使われている。中央統一戦線工作部はまた、学術やメディア領域での西側協力者との関係を築くためにも活動する。

日本の場合

※ 中国による日本での影響活動が考察され、日本の社会やメディアの状況が外国による情報操作などの影響活動を受けにくい構造となっていることが指摘されています。

地理的に近いこと、経済的な重要性、地政学的なライバル関係、および長期にわたる米国との同盟を考慮すれば、日本は中国による影響活動の当然のターゲットである。

日本は、中国による肯定的なイメージづくりを目的とする影響活動に対し反発力があることを示してきた。2019年のピュー・リサーチによる世論調査では、日本での調査対象者の85パーセントが中国に対する好ましくない見方を持っていることが明らかになった。調査対象の全34か国の中で中国に対して最も否定的な見方となった。

これは、何世紀にもわたる敵対心に基づいた、日本の大衆の中に存在する中国に対する根深い偏見を反映したもののようだ。

社会的統合と党派性
日本の政治的安定は、無関心な大衆と市民の関与の低さによって強化され、選挙への(外国からの)干渉の余地を狭めており、外国の影響力に対する日本の政治への大いなる予防となっている。

2回の短い中断はあったが、与党の自由民主党は1955年以来政権をコントロールし、外国の政治的干渉の影響を最小化している。

経済的つながり
グローバリゼーションに日本がさらされることを和らげる伝統的な障壁は、安倍晋三首相の下でゆっくりと消えつつある。しかし、それは、中国の影響に対する防御の主要な源として未だに健在である。

日本国内向けの外国直接投資は2017年に約100憶ドルで、上位20か国からはずれている。日本は輸出市場としての中国への依存を強めているが、中国による外国直接投資の影響には比較的さらされていない。

移住
日本では中国人留学生や旅行客が増加しており、日本の非常に小さな外国人人口の大部分を占めている。

しかし、日本の圧倒的な文化的・人口的な同質性により、中国が日本における移住コミュニティを通じて影響力を伸長する機会は少ない。

メディアの状況
日本は反発力をメディア環境から得ている。1つには、その環境というのは排他的な記者クラブのことだ。その反発力はまた、機密情報の漏洩を罰する2013年の秘密保護法の制定と効力を通じた自由な報道への制限によって守られている。

日本の5大メディア複合企業が主要な新聞および放送メディアを支配している。この中央集権的な少数者支配の報道環境により、外国メディアが日本の政治的言説に影響を与える機会は少ない。

選挙資金
1948年制定の政治資金規正法に基づく外国の資金提供に対する厳格な選挙資金の規正は、日本の支配層が外国の影響下に陥ることを防ぐ反発力のもう1つの源である。

オーストラリアの場合

※ オーストラリアの経済や政治が中国の経済力や資金に依存し、中国人のオーストラリアへの大規模な移住に影響を受け、北京がそれを利用して影響活動を試みてきた面があることが指摘されています。しかし近年、こうした事態に対する反発や修正があることも言及されています。

オーストラリアは競争が強まるインド・太平洋地域における米国の同盟国としての戦略的価値から、日本と同様、中国の影響活動にとって魅力的なターゲットである。

北京の究極の目的はオーストラリアを米国との同盟から引きはがすことだ。

南シナ海などの主要な課題においてオーストラリアを中立的にすることは、アメリカの地域的なリーダーシップを低下させ、北京に大きな利益をもたらしうる。

オーストラリアの、中国および大規模な中国人移住への経済的依存は、それを利用する北京の影響力の核心部分を生み出している。

社会的統合と党派性
中国は中国人の移住社会の統合を図ることにより、また、人種間の感情を利用することによって、オーストラリアの多文化社会の分断を試みてきた。

オーストラリアの競争的な政党制度は、中国に対するアプローチにおいて全体として団結する政治的エリートたちと共に、政治的影響力を得ようとする中国の活動に対して反発力があることを示してきた。

中国の影響活動が大きな公の問題として明らかになったことから、中国に対処する超党派の精神は近年強固になっている。

経済的つながり
オーストラリアは他のいかなる先進民主主義国よりも経済的に中国に依存している。鉄鉱石や燃料ガス、石炭、農産物の輸出において、中国はオーストラリアの抜きんでて大きな輸出相手国である。

中国はオーストラリアへの旅行客と留学生の最も大きな源でもある。このことは、オーストラリアの産業界や大学の指導者層の間に中国との協力的な関係についての支持層を生み出している。

移住
オーストラリア住民の5パーセント近くが中国人の祖先を持ち、いくつかの主要な対立の激しい選挙区では、相対的に高い数の中国系住民が生活している。これらのコミュニティは長期にわたって中国共産党と中央統一戦線工作部の影響操作の主要なターゲットである。

メディアの状況
オーストラリアの自由で活発な報道は、オーストラリアでの中国の有害な影響活動に光を当てる重要な要素であり続けている。それは、多くのオーストラリア・中国関係についての公の議論を始めることにも役立っている。

しかし、オーストラリアの中国語メディアは全体的に、北京に関係する勢力によって吸収または買われている。WeChatやその他の中国語のソーシャル・メディアの使用増加により、中国語を話すオーストラリア人の、北京がコントロールするストーリー以外の情報や見方へのアクセスはさらに限られている。

選挙資金
近年まで、オーストラリアは外国人からの選挙寄付を禁止しない数少ない先進民主主義国の1つだった。

この抜け道により、中国共産党と密接な関係にある豊かな中国人実業家たちは、巨額の選挙寄付を通じて主要政党へのアクセスを得て、中国への政策に影響力を持つことを試みることができた。

政治的影響力を買うためのこうした試みについてのメディアによる暴露が、外国からの政治的寄付を禁止する法的な改革につながった。

中国の影響力

※ この項では、上記を踏まえて中国による影響活動がまとめ直されると共に、日本とオーストラリアが中国の影響活動に対して反発力があることが重ねて指摘されています。

日本は、さまざまな要因によって、中国の影響活動に対して反発力があることを証明してきた。これには、厳格な選挙資金の規則、政治的・文化的な同質性、相対的な歴史的孤立、少数支配のメディア環境、長い対立の歴史から生じている中国への大衆の疑念が含まれる。

オーストラリアには中国にとってより活用できる点があり、中国はそれを巧みに利用してきた。これには強い経済的つながり、大規模な中国人系のコミュニティ、中国および米国とオーストラリアの関係をめぐる進行中の戦略的議論が含まれる。

しかし、オーストラリアではイギリス同様に、大々的に報道されたスキャンダルの波によって、外国からの有害な影響の脅威に対する関心が集まり、断固たる公の反応の火がついた。外国からの干渉を取り締まる法律が超党派の圧倒的な支持により成立した。

オーストラリアの民主的・政治的文化は、そのぜい弱さにもかかわらず、政治的環境に影響力を持とうとする中国による試みの増大に対して反発力があることを証明している。

分析

※ 「分析」と題されたこの項では、これまで紹介してきたロシアによるドイツ・イギリスでの影響活動および中国による日本・オーストラリアでの影響活動の主要ポイントが改めて分析し直されています。

ロシアと中国は民主主義諸国内部の結束および民主主義諸国と米国との同盟を引き裂こうと試みる。しかし、そのやり方はかなり異なる。

クレムリンは同盟関係の構造の内部において不和や混乱の種をまくことを試みる。一方、中国共産党は主として、米国の同盟国を中国との関係強化や中国を制約する米国の活動と距離をおくよう仕向けたり引き入れたりするために活動する。

ロシアと中国の有害な影響活動は、本研究において考察しているターゲットとされる国々の外交政策に最小限の影響力しか持っていない。

不安定と分断を利用するロシアの明確な活動にもかかわらず、こうした影響活動が直接的な影響力を持ったという証拠はない。場合によっては、活動は裏目に出て、ターゲットとした国に否定的な意見をもたらす結果になっている。

事例研究の国のロシアと中国への好ましい意見の割合と好ましくない意見の割合
※出典元のグラフを参照してください。

影響活動はなぜ裏目に出ているのか?
ロシアおよび中国とターゲットとなる国の歴史的関係は、影響力操作の成功または失敗に大きな影響を与えている。

中国と対立する日本の歴史において、中国に対する生来の懐疑が生まれ、中国が影響力を構築する可能性は抑えられる。ドイツでは、ロシアへの共感的な感情を抱く移住コミュニティにより、ロシアの影響力が増幅される。移住コミュニティの民主主義への統合の規模と程度によって、外国の影響と操作に対する移住コミュニティの影響の受けやすさの度合いは異なる。

移住コミュニティは社会的統合や政治的な分極化の重要な要素である。高度な分極化や社会的分断によって民主主義の内部においてつけこまれる機会が生じる。こうしたことから、ロシアと中国は移住コミュニティをターゲットにする。

国の規制状況は影響活動の効果を抑止し緩和するためにきわめて重要である。この規制は単純な国内的遵守というよりも、ますます国家安全保障のレンズを通して見られるようになってきている。

厳格で透明性のある選挙資金の規制は外国からの政治的影響力に対して民主主義を守り、エリート層が外国の影響下に陥る機会を最小限に抑えた。高度な透明性を伴う規制とソーシャルメディア・プラットフォームの監視も影響活動を和らげている。

しかし、開放性は両刃の剣となりうる。ロシアと中国は、自らの影響活動を追求するために民主的な言論の自由の要求を利用してきた。

一例を挙げれば、イギリスの監督機関がRT(ロシア・トゥデイ)に制限を課したとき、RTは「言論の自由」を守るために訴えた。同様に、イギリスの厳格な名誉棄損の法のように過剰に規制されたメディア空間は、外国の影響活動の主体者たちに、有害な影響活動への注意を呼びかける人々を訴えるための法的根拠を与える可能性がある。

大衆のメディアへの信頼は、情報空間での外国の影響に対する一国の反発力に影響力を与える。伝統的なメディアに高い信頼のある民主主義国は情報操作に対しぜい弱ではないようだ。

ドイツと日本にはメディア部門において高い信頼とものの見方の均質性がある。イギリスとオーストラリアには外国の影響に対して開かれた多様なメディア構造がある。

最後に、不釣り合いな経済的関係も影響力を持つ。中国やロシアとの経済的な不釣り合いが大きくなるほど、ターゲットとなる国の主要な政治的力を持つ者たちが影響を受ける機会も増える。そうした人物たちは、威圧的な形式の影響力にもソフトな形式の影響力にもぜい弱になる可能性がある。

結び

※ 開かれた情報空間のような民主主義の特質が、外国からの情報操作にぜい弱であること、しかし、透明性、法の支配、報道の自由のような民主主義の強みを生かし、脅威のもとにおかれている民主主義国が互いに協力し学び合うことで、ロシアや中国からの影響活動に対抗できると締めくくられています。

政府による対抗手段、社会的統合、およびバランスの取れた経済的関係は、民主主義国内での有害な影響活動を緩和させる。しかし、ロシアと中国は、新たなテクノロジーやテクニックを利用した活動を民主主義のぜい弱さにつけこむために適合させ変化させ続ける。

これまでの証拠は、中国が情報空間におけるロシアの戦術を真似していることを示唆している。それには、虚偽のメッセージを拡散するための偽のソーシャル・メディアのアカウントをつくることが含まれており、特に、コロナウイルスの感染拡大への米国の政権の対応に関連する虚偽のメッセージの拡散が含まれる。

民主主義国にはそれぞれ、独自のぜい弱さがあり、しかし、独自の強みがある。透明性と法の支配から報道の自由や民主主義的規範まで、民主主義国家の特質は外国からの有害な影響活動に対する反発力を育んでいる。

開かれた情報環境のような外国の主体によってつけこまれるぜい弱さは、民主主義国家の特質でもあり、守るに値するものでもある。したがって、民主主義諸国はぜい弱さを減らすことと同様に、その強みを強化することに力を注ぐべきである。

中国がロシアから学んでいるように、脅威のもとにおかれている民主主義国は互いに学び合うことができる。このような協力を増やし、有害な影響活動に対抗する共通の手法を見つけることは、こうした影響活動が目的を達成できない状況であり続けるようにする最も良い方法である。

出典:CSIS July 1, 2020 Countering Russian & Chinese Influence Activities
Heather A. Conley, Rachel Ellehuus, Timothy Kostelancik, Jeffrey Mankoff, Cyrus Newlin, Amy Searight, & Devin Stewart(こちらからどうぞ)

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