米フロントラインのドキュメンタリー「Trump’s Trade War(トランプの貿易戦争)」(2019年5月7日放映、54分47秒)は、今日ますます対立が深まる米中関係を経済戦争の面から理解するうえで大変参考になる番組であると思います。
番組はトランプ政権関係者や専門家、銀行家、企業経営者、労働者、そして中国の専門家や企業経営者へのインタビューを交えながら、2017年4 月のトランプ大統領と習近平国家主席の会談、関税の大幅な引き上げをめぐる反応、中国と米企業の関係、2018年10月のペンス副大統領による中国批判の講演などの経過を追っていきます。
番組は英語字幕のみですが、英語のトランスクリプトを確認することができます。
映像:Trump’s Trade War (full documentary) FRONTLINE
トランスクリプト:Transcript Tramp’s Trade War FRONTLINE
トランプの関税引き上げを支持する鉄鋼労働者たち
番組の最初の方でオハイオ州ミドルタウンの鉄鋼労働者たちがフロントラインの特派員ローラ・サリバンに次のように語るシーンでは、彼らがなぜトランプの関税引き上げを支持するのかがよく伝わってきます。
※会話の背景:
トランプ大統領は2018年3月に1962年通商拡大法232条(国家安全保障)を発動し、鉄鋼とアルミニウムの輸入に対して追加関税(鉄鋼25%、アルミニウム10%)を適用していた。(参照:浦田秀次郎「崩壊の危機に直面する自由貿易体制」国際問題 No. 677、2018年12月)
関税は鉄鋼の町の助けになる
LAURA SULLIVAN:
What did you think when you first heard that Trump was putting tariffs on steel?
トランプが鉄鋼の関税を引き上げることを最初に聞いた時にどう思った?
MIKE BURT:
I thought it was, you know, it was about time. I’ve watched the farmers get their subsidies. I’ve watched the banks’ bailout, the automotive industry bailout. And I’ve just watched us wither on the vine for the last 30 years.
やっとそうなると思った。農家が補助金をもらうのを見てきた。銀行が援助してもらい、自動車産業が援助されるのを見てきた。この30年間、我々の産業が実を結ばずにきたのを見てきた。
LAURA SULLIVAN:
Do you think it’s going to help the town? Do you think it’s going to help your hometowns?
関税の引き上げは町の助けになる? あなたの町の助けになると思う?
LANCE MYERS:
Sure.
もちろん。
MIKE BURT:
Absolutely.
まったくそのとおりだ。
LAURA SULLIVAN:
What are you expecting to see?
何を期待しているの?
NEIL DOUGLAS:
Everybody always talks about jobs and America, and we hear that all the time. We want to see that reality happen. You know, you can’t just depend on foreign countries for steel. We’ve got to make it in the United States.
皆いつも仕事とアメリカについて話し、その話題ばかりだ。それが現実に起こるの見たがっている。鉄鋼を外国に頼ることはできないんだ。米国で生産しなければならない。
公平な競争の場が欲しいだけ
LANCE MYERS:
We just want China to play by the rules. That’s it. We don’t—we don’t want a bailout, you know.
中国にはルールに従って欲しいだけ。それだけだ。補助金が欲しいわけじゃない。
LAURA SULLIVAN:
So you’re saying it’s not that you want your industry propped up?
鉄鋼産業では補助金が欲しいわけじゃないということ?
LANCE MYERS:
No, not at all.
補助金はまったくいらない。
NEIL DOUGLAS:
No.
全然いらない。
LAURA SULLIVAN:
You want your industry—
鉄鋼産業が求めているのは-
LANCE MYERS:
A level playing field.
公平な競争の場。
LAURA SULLIVAN:
You want a level playing field.
公平な競争の条件が欲しいのね。
LANCE MYERS:
That’s it. That’s all we want.
それだけ。求めているのはそれだけ。
LAURA SULLIVAN:
But using tariffs to level the playing field has a flip side. They’ve brought unwelcome consequences for many other U.S. businesses.
だが、公平な競争の条件のために関税を引き上げることには裏の面もある。他の多くのアメリカのビジネスにとっては歓迎できない結果がもたらされているからだ。
(映像:6:05-7:06)
番組で印象に残った数々の言葉
以下、番組の中でいくつか印象に残った言葉を紹介します。その前後の文脈もあわせて紹介できると良いのですが、かなり大変な作業になってしまいそうなので断念します。
ぜひ映像とトランスクリプトにあたってみてください(※以下の英語原文の上の数字は映像の中でその言葉が流れる時間を示しています)。
関税は米中経済戦争の代理
4:18
STEVE BANNON, Trump chief strategist, 2017-18(トランプ大統領の首席戦略官、2017-18年):
The fights were nasty that came out of Mar-a-Lago. The most intense fights and debates in the White House were about this issue of tariffs, but tariffs as a proxy to the great economic war with China that we’re engaged in. There’s no middle ground. One side’s going to win and one side’s going to lose, and so we knew the stakes were high.
マララゴ(トランプと習近平の会談)から生じた戦いは取り扱いが難しかった。ホワイトハウスでの最も激しい戦いと議論は、この関税の問題だった。だが、関税は我々がかかわる中国とのし烈な経済戦争の代理だ。妥協点はない。一方が勝ち、一方が負ける。リスクが高いことはわかっていた。
障害はアメリカ企業
30:14
LAURA SULLIVAN, Correspondent(フロントライン特派員):
But while Trump was blaming his predecessors, we were hearing about other reasons why the problems with China had gone on so long.Dozens of interviews we did in China and the U.S. pointed to an unlikely obstacle: American businesses themselves.
しかし、トランプが彼の前任者たちを非難していた一方で、私たちは中国との問題が長く続いている別の理由を聞いていた。中国とアメリカで行った数多くのインタビューによって、あり得ない障害が指摘された。それは、アメリカの企業それ自身だった。
トランプやオバマより習近平が大事
38:43
JAMES McGREGOR, Former Chair, American Chamber of Commerce in China(ジェイムズ・マッグレガー、在中米国商工会議所元会頭):
Sometimes two things can be true at the same time. I mean, their incentives are to make money. If your business is in China, Xi Jinping is more important to you than Donald Trump or Barack Obama. And it’s not that these are bad people who don’t care about America, but their incentives are to shareholders, not to the government of the United States.
時に2つの事柄が同時に真実であり得る。米国の企業人たちの動機は金を儲けることだ。会社が中国にあるなら、ドナルド・トランプあるいはバラク・オバマより習近平がもっと大事だ。こうした人々はアメリカのことを気にかけない悪い人々ではない。しかし、彼らの動機は株主に向かっており、米国の政府にではないのだ。
貿易戦争じゃない、技術経済戦争だ
45:08
SUSAN THORNTON, Assistant Secretary of State, 2017-18(国務次官補、2017-18年):
Somebody from the business community said, “You know, we’re not in a trade war; we’re in a techonomic war.” And I think that’s what we probably are really worried about.
ビジネス業界の者は「知ってのとおり、我々の状況は貿易戦争じゃない、技術経済戦争だ」と言った。それが、我々がおそらく本当に憂慮することだと思う。
以上です。ぜひ、番組をご覧ください。
映像:Trump’s Trade War (full documentary) FRONTLINE
トランスクリプト:Transcript Tramp’s Trade War FRONTLINE