トランプ米大統領は2020年4月14日(米国東部時間)、WHO(世界保健機関)の新型コロナウイルスへの対応を批判し、WHOへの資金供出の停止を表明しました。
彼は同日の記者会見で次のように主張し、WHOを徹底的に批判しています。
- WHOは中国の主張を擁護し、事実に即した適切な対応をとってこなかった
- 多額の資金をWHOに拠出している米国は責任を主張する義務を負っている
- WHOの情報が信頼できないのであれば、米国は他の諸国と協力するための別の方法を見つけねばならない
一方、WHOのテドロス事務局長は2020年4月15日(スイス・ジュネーブ時間)、上記のトランプ米大統領によるWHOへの資金停止の表明を受けて、新型コロナウイルスをはじめとする世界の公衆衛生に取り組むWHOの責任と役割について次のように述べています。
- アメリカ合衆国大統領の決定を遺憾に思う
- 国際連帯こそがCOVID-19を打ち負かす闘いのルールだ
- 加盟国の負託に責任を持つWHOの実績は、加盟国と、透明性と説明責任を確保するために導入されている独立組織によって再調査される。これは通常のプロセスの一部だ
以下、米ホワイトハウスのウェブサイトに掲載されているトランプ大統領の主張(※2024年7月7日現在、掲載されていないようです)と、WHOのウェブサイトに掲載されているテドロス事務局長の反応のポイントを日本語に訳して紹介します。
※日本語訳には読みやすくするために小見出しを付けています。英語原文にはありません。
トランプ大統領の主張 2020年4月14日発表
WHOへの資金停止を指示
本日、私は、コロナウイルスの感染拡大の対応の誤りとその感染拡大を隠ぺいしたことについて世界保健機関(WHO)への審査が行われる間、WHOへの資金拠出を停止するよう政府に指示します。WHOで起こっていることは、誰にも明らかなことです。
米国の納税者は年間4億ドルから5億ドルをWHOに提供しています。対照的に中国は年間およそ4千万ドルないしそれ未満の資金提供です。WHOの先頭に立つスポンサーとして、米国は最大の責任を主張する義務を負っているのです。
WHOによる危険な決定
WHOによる最も危険で損失の大きい決定の1つは、中国および他の国からの渡航制限に反対するという破滅的な決定でした。WHOは、我々の行った制限に強く反対しました。幸いにも、私はそうした反対には納得せず、中国からの渡航を一時的に停止し、表には現れることのない多くの命を救うことができました。(WHOに従えば)多くの人々が亡くなっていたでしょう。
もし、他の諸国が同様に中国からの渡航を一時制限していたならば、数えきれない命が救われていたでしょう。他の国々を見てください。ヨーロッパの諸国を見てください。WHOのガイドラインに従い、中国に国境を開いたままであった他の諸国や地域は、世界中でパンデミックを加速させました。多くの国々が「WHOの話を聞く」と述べました。そして、そうした国々は、(WHO)を信用できないという問題を抱えています。(WHOを)信用できる国はありません。
国境管理がウイルス管理の基本
渡航制限を課さないという他の主要国の決定は、とてつもない悲劇の一つでしたし、初期の頃から、機会を失っていました。渡航制限へのWHOによる攻撃は、命を救うための手段よりも政治的公正さを上におくものでした。渡航制限は隔離が機能することと同様の理由のために機能するものです。パンデミックは人から人への感染によるものです。国境の管理はウイルスの管理の基本です。
WHOの失策
世界のためにより良い衛生状態を提供し、最も重要なことには、国際的な衛生の危機を防ぐためにアメリカ国民は1948年の(WHOの)設立以来、世界保健機関を大いに支援してきました。COVID-19によるパンデミックの発生とともに、我々はアメリカの善意が可能な限り最も良い用途に使われてきたのかということに強い懸念を抱いています。
現実は、WHOがそうしたことを適切に行うことができず、そして情報をタイムリーかつ透明性のあるかたちで共有することができなかったということです。
国際的な衛生の危機についての正確な情報のタイムリーな共有を確保することを各国と協力するために、世界はWHOに依存しています。もしそうでないのなら、個々独自に、何が起こっているのかを世界に伝えることになります。
WHOは基本的な任務ができませんでしたし、その責任を負わなければなりません。この数十年の結果として、その責任を取るのは今なのです。WHOは、中国政府の公式な説明とははっきりと矛盾する武漢の情報源からの信頼できる報告を調査しませんでした。2019年12月には、人間から人間への感染が疑われる、信頼できる情報があり、それはWHOに即座に調査を行うよう促すはずのものでした。
WHOは1月中旬にかけて、それとは異なる報告や明らかな証拠があるにもかかわらず、人間から人間への感染の発生はないとの考えを繰り返し、公に認めていました。WHOが公衆衛生の緊急事態の宣言のために要した遅れによって、貴重な時間、膨大な時間が費やされました。
我々が望み、WHOがすべきであった、国際的な専門家チームにその(新型コロナウイルスの)発生を調査させるために要した遅れの中で、さらなる時間が失われました。ウイルスのサンプルを得るためのWHOの能力の無さのために、これまで、科学の分野は必要不可欠なデータを得ることができなかったのです。
日毎の、世界各地から出される新たなデータによって、初期の報告の信頼の無さが指摘されています。世界は感染と死亡率についてのあらゆる種類の誤った情報を得ていました。
中国への依存
WHOの沈黙、それは科学的な研究者と医師の失踪について、そして発生源となった国でのCOVID-19の起源についての調査の共有への新たな規制に関する沈黙ですが、とりわけ、飛びぬけて多くの基金を拠出している我々にとって憂慮されるものです。否、憂慮どころの話ではありません。
WHOが現場で状況を客観的に評価するために医療専門家を中国に派遣する仕事を行い、中国の透明性の欠如をはっきりさせる仕事をしていたならば、その発生は最小の死で、最小の死亡者で、対照的にまさに最小の死亡者でもって、発生源において封じ込めることができたはずです。これは数千の命を救い、世界的な経済的損失を回避したはずです。
そのかわりに、WHOは中国の主張を進んで額面どおりに受けとろうとし、まさに額面どおりに受けとって、中国政府の行動を擁護しました。中国を似非(えせ)の透明性のために賞賛さえしたのです。私は透明性があるとは思いません。WHOはウイルスについての中国の誤った情報を支持し、そのウイルスが伝染性ではなく、渡航禁止は必要ないと述べました。我々が渡航禁止を実施した際、大変強力な渡航禁止ですが、WHOはそうする必要はないと我々に言ったのです。「そのようなことをしてはならない」。(そう言って)WHOは実際に我々と争いました。
中国の発表へのWHOの依存によって、世界での感染において20倍の増加が引き起こされたとされ、それはさらに多いかもしれません。
WHOはこれらの懸念について、1つとして取り組んできませんでしたし、自らの多くの失敗を認める真剣な説明もしてきませんでした。
公衆衛生のための別の道
アメリカと世界各国は、重要な公衆衛生の助言と決定を行うための正確で、時宜にかなった、独立した情報のために、WHOに依存することを選んできました。我々がWHOから受け取る情報を信頼できないのであれば、我が国は公衆衛生の目的を達成するために他の国々と協力するための別の方法を見つけねばなりません。我々はそうせざるを得ないでしょう。
世界中で見られるように、我が国は今、非常に多くの死と経済的損失を経験しています。なぜなら、事実に即し透明性によって我々を守ることを任務とする人々が、それを怠ったからです。事実に即することはとても簡単なことであったはずです。彼らの失敗によって、非常に多くの死が引き起こされてきたのです。
我々は、WHOが意味のある改革を行うことができるかどうかを確かめるために、WHOに関わり続けます。当面の間、我々は国際的な衛生管理について方向転換し、他の国々と直接的に取り組みます。我々が送るすべての援助は、とても強力な書簡、強力で影響力のあるグループ、賢明なグループによって、医学的、政治的、そして他のあらゆる方法で議論されるでしょう。
我々は他の国々や国際的な衛生に関わるパートナーとともにそれを議論します。すなわち、WHOのもとに行くお金で何をするのかということです。WHOは改革を行うかもしれませんし、しないかもしれません。我々は確かめることができるでしょう。
出典:Remarks by President Trump in Press Briefing– Healthcare Issued on: April 14, 2020(※ホワイトハウスのウェブサイトでは現在、閲覧できないようです。米国のイタリア大使館のウェブサイトには掲載されています。2024年7月7日現在)
次に、トランプ大統領によるWHOへの資金停止の表明を受けてのWHOテドロス事務局長の反応です。
WHOテドロス事務局長の反応 2020年4月15日
WHOは世界の人々の健康のために
世界のあらゆる場所にいる皆さん、おはようございます、こんにちは、そしてこんばんは。
1945年に世界の国々が国際連合をつくるために会したとき、最初に議論したことの1つが世界の人々の健康を守り増進させるための組織を設立することでした。
(国連の設立のために集まった)国々は、WHOの憲章の中でその願望を表明しました。すなわちそれは、健康に関する最高の達成可能な水準を享受することは、人種、宗教、政治的信条、経済的または政治的条件の違いにかかわらず、すべての人間の基本的権利の1つであると述べています。
その信条は今日も、我々の構想であり続けています。
米国は心の広い友人
アメリカ合衆国はWHOにとって長きにわたる心の広い友人であり、それが続くことを願っています。
我々は、世界保健機関への資金の停止を指示したアメリカ合衆国大統領の決定を遺憾に思います。
アメリカ合衆国の国民と政府からの支援によって、WHOは世界の最も貧しく傷つきやすい人々の健康を向上するために仕事をしています。
WHOの闘いはCOVID-19以外にも
WHOはCOVID-19と闘っているだけではありません。我々はまた、ポリオ、はしか、マラリア、エボラ、HIV、結核、栄養失調、がん、糖尿病、メンタルヘルス、そして多くの他の病気や状況に取り組むために仕事をしています。
我々はまた、衛生システムを強化し、命を救う衛生サービスへのアクセスを向上するために諸国と一緒に取り組んでいます。
WHOはアメリカ合衆国の資金の引き上げによる我々の仕事への影響について見直しています。そして、直面する財政的な隔たりを埋め、仕事が途切れることなく続くことを確保するために、他のパートナーと一緒に取り組んでいきます。
公衆衛生と科学のために、恐怖や情実なく世界中の人々に奉仕
公衆衛生と科学のために、恐怖や情実なく世界のすべての人々に奉仕することへの我々の責任は疑う余地のないものです。
我々の使命と負託は、人口や経済の大きさにかかわらず、平等にすべての国と一緒に仕事をすることです。
ウイルスは世界の分断につけこむ
COVID-19は豊かな国と貧しい国、大国と小国を区別しません。それは、国籍、民族、イデオロギーを区別しないのです。
我々も同様に区別しません。これは、我々皆が共通の脅威である危険な敵に向かう共通の努力のために団結するときなのです。
我々が分断されるとき、ウイルスはその亀裂につけこみます。
独立組織がWHOの取り組みを調査
我々は世界の人々に奉仕することに深く関わり、委託された資源への説明責任を負っています。
いずれそのうちに、このパンデミックに取り組むなかでのWHOの実績は、WHOの加盟国と、透明性と説明責任を確保するために導入されている独立組織によって再調査されます。これは加盟国によって導入された通常のプロセスの一部です。
疑いなく、改善のための領域が特定され、我々皆が学ぶ教訓があるでしょう。
連帯がCOVID-19を打ち負かす闘いのルール
しかし今、我々の焦点は、私の焦点は、このウイルスを止め、命を救うことです。
WHOは、財政的な献身を含め、近頃の、WHOへの支援と献身を表明されてきた多くの国々、組織、個人に感謝しています。
我々は、こうした国際的な連帯の表明を歓迎します。なぜなら、連帯がCOVID-19を打ち負かす闘いのルールだからです。
WHOはその仕事を進めます。
ウイルスの情報を常に学び・共有していく
我々は毎日のあらゆる瞬間にこのウイルスについて学び続けています。我々は何が機能するかを多くの国から学んでいます。そして我々はその情報を世界と共有しています。
OpenWHO.org(こちら)を通じてWHOのオンライン コースには150万以上の登録があります。我々は数百万を大きく超える登録者を訓練するためにこの基盤を拡張しつづけます。そうすることで、我々はCOVIDと効果的に闘うことができるのです。
本日、我々は個人の防護装備を身に着けたり外したりする方法について、衛生従事者のための新たなコースを始めました。
我々の技術的な手引きは、衛生大臣、衛生従事者、そして個人のために、最新の証拠をまとめています。
出典:WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 15 April 2020
映像:Live from WHO Headquarters – COVID-19 daily press briefing 15 April 2020
追記(2024年7月8日)
● トランプ大統領は2020年5月18日、WHOのテドロス事務局長に書簡を送り、新型コロナウイルスをめぐるWHOの対応を改めて批判しました。
● さらに、トランプ大統領は2020年5月29日の記者会見で、中国とWHOの「不透明」な関係性が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の要因の1つであり、WHOはそうした問題点の改善に取り組んでいないとして、WHOから脱退することを発表しました。
● バイデン大統領は2021年1月20日、前トランプ政権が進めていたWHOからの脱退の手続きを停止する大統領令に署名しています。