2020年のアメリカ大統領選での若者の投票行動について、投票率や重視された課題、若者世代であるミレニアル世代やZ世代の特徴について紹介してみたいと思います。
若者の投票率が上昇
米国の無党派の独立系調査研究組織CIRCLE(Center for Information and Research on Civic Learning and Engagement)によれば、2020年11月18日時点で集計された投票数をもとにした18-29歳の若者世代の大統領選での投票率は52%-55%で、2016年の大統領選の若者世代の投票率(42-44%)を大きく上回っています。
同CIRCLEの報告では、若者の政治参加と有色人種の若者によるバイデンへの圧倒的な支持が選挙の決定的な要素の1つになったと指摘されています。(出典:CIRCLE Election Week 2020: Youth Voter Turnout 52%-55% November 18, 2020)
大統領選において若者が重視した課題
同CIRCLEの報告によると、今回の大統領選において「米国が直面する課題」として若者世代が関心を持っていたテーマは次のとおりでした。
バイデン支持の若者世代の有権者
・コロナウイルスによる感染爆発(42%)
・人種差別(21%)
・気候変動(12%)
・経済と仕事(8%)
・妊娠中絶(1%)
トランプ支持の若者世代の有権者
・経済と仕事(41%)
・コロナウイルスによる感染爆発(21%)
・妊娠中絶(9%)
・人種差別(7%)
・気候変動(3%)
両者の違い
上記のとおり、バイデン支持の若者とトランプ支持の若者ではかなりの違いが見られます。
トランプ支持の若者では経済と仕事がトップになています。
米国では正規の学部生の43%が何らかの仕事に就いており(2017年調査)、コロナウイルスの感染爆発による経済の停滞の中で経済や仕事に関心が集まるのも当然なことのように思います。
しかし、バイデン支持の若者の経済や仕事に関心を持つ割合と大きな開きがあるのはなぜなのか、私にはよく分かりません。
また、妊娠中絶の問題もバイデン支持の若者とトランプ支持の若者の間で大きな差があります。
トランプ支持の若者の中に、妊娠中絶に反対するトランプや共和党の考え方に賛同する若者が一定数存在することがうかがえます。
私の経験では、妊娠中絶の問題は我々日本人が想像する以上に米国では関心が高いように思います。
私が米国に留学中に「アメリカの公共政策」のクラスを受講した際、この問題が取り上げられたことがあります。60人ほどの学生の間で賛否をめぐって激しい議論が起こり、教室全体が興奮状態になったことがありました。私はアメリカ人学生たちの早口で激高した英語について行けず、議論の中身を十分に理解できなかったことが残念でした。
移民問題と銃規制
また、同CIRCLEの報告には移民問題や銃規制についても次のようなデータが紹介されています。
移民を制限するために国境で壁を建設することに「強く反対する」
・若者世代(49%)
・全世代(33%)
※「強く支持する」と答えた若者世代は19%
銃規制をより厳しくすることに「賛成する」
・若者世代(57%)
・全世代(53%)
※うち、有色人種の若者世代は71%が賛成
ということで、上記の報告から、今回の大統領選において若者世代がどんな課題に関心を持っていたのかを一定理解することができます。
ただ、同CIRCLEの報告から読み取れるデータは、各テーマについての一部の数字にとどまっているため、全体像がつかみにくく、読んでいてわかりにくい部分もあります。また、上記の情報だけでは、若者世代の投票率が上がった理由も今一つ判然としません。今後報告が更新されていくと思われますので確認が必要です。
若者世代(Z世代/ミレニアル世代)について
上記の報告で取り上げられた米国の若者世代についてもう少し調べてみたいと思い、ピュー・リサーチ・センターのウェブサイトに掲載されている「On the Cusp of Adulthood and Facing an Uncertain Future: What We Know About Gen Z So Far MAY 14, 2020」(おとなの入口で不確かな未来に向き合う:Z世代についてこれまでにわかっていること 2020年5月14日)というタイトルの調査レポートを読んでみました。
以下、印象に残った部分を紹介します。
Z世代の影響力が増していく
ピュー・リサーチ・センターでは、1981~1996年に生まれた世代をミレニアル世代、1997年以降に生まれた世代をZ世代としています。
2020年11月の選挙では米国の有権者の10分の1、約2400万人のZ世代が投票の機会を持つことになります。そしてその影響力は今後Z世代のより若い世代が投票年齢に達することで増していくことになります。
白人の占める割合がそれ以前の世代に比べて減少している
ミレニアル世代やZ世代の人種・民族構成を見ると、「ヒスパニックを除いた白人」の占める割合がそれ以前の世代に比べて減少しており、ミレニアル世代で61%、Z世代では52%になっています。
逆に言えば、これら2つの世代の半数近くがヒスパニック系、黒人、アジア系で構成されるようになってきたということです。
政府への期待度が高い
ミレニアル世代やZ世代は政府への期待度が高いようです。
ミレニアル世代の64%、Z世代の70%が「問題の解決にあたって企業や個人よりも政府がもっと仕事をすべきだ」と考えているようです。
両世代以前では、X世代の53%、ブーマー世代の49%、サイレント世代の39%が「政府がもっと仕事をすべきだ」と答えており、ミレニアル世代やZ世代の数字の高さが目立っています。
トランプ大統領への評価が低い
2020年1月の調査では「トランプの大統領としての仕事ぶりを評価できる」と答えたのはZ世代で22%、ミレニアル世代で32%と低調でした。
他の世代に比べて民主党への支持が高い
1月時点でのピュー・リサーチ・センターの調査では、18歳~23歳のZ世代の有権者の61%が「大統領選で民主党の候補者に必ずまたはたぶん投票する」と答えていました。「トランプに投票する予定である」と答えているのは22%でした。
ミレニアル世代にも同様の傾向が見られ、「民主党候補者への支持」が58%であったのに対して、「トランプへの支持」は25%でした。
この数字は他の世代と明らかに異なっており、X世代の有権者では37%、ブーマー世代では44%、サイレント世代では53%が「トランプ大統領を支持するつもりだ」と答えていました。
ということで、ミレニアル世代やZ世代のこうした特徴や傾向が2020年の大統領選での若者の投票行動に影響を与えた可能性が推測できます。
今後、Z世代の有権者がさらに増えていく中で、米国の政治はこれまで以上にZ世代やミレニアル世代を意識していくことになりそうです。
このピュー・リサーチ・センターの調査レポートでは上記で紹介したデータ以外にも、人種の問題、教育、気候変動、ジェンダーなどのテーマでのZ世代やミレニアル世代の特徴や傾向が分析されています。関心を持たれた方はぜひお読みください。
出典:On the Cusp of Adulthood and Facing an Uncertain Future: What We Know About Gen Z So Far MAY 14, 2020 Pew Research Center