【アメリカ外交】ペロシ氏の台湾訪問とアメリカの「成功の夢」

ペロシ氏の台湾訪問

ナンシー・ペロシ米下院議長は、自身の台湾訪問(2024年8月2-3日)についてワシントンポストに寄稿し、次のように述べていました。

America’s solidarity with Taiwan is more important today than ever — not only to the 23 million people of the island but also to millions of others oppressed and menaced by the PRC.
台湾へのアメリカの連帯は今日、2300万の台湾の人々だけでなく、中国に抑圧され脅かされている他の何百万もの人々にとっても、これまで以上に重要になっています。

By traveling to Taiwan, we honor our commitment to democracy: reaffirming that the freedoms of Taiwan — and all democracies — must be respected.
台湾を訪問することで、われわれは民主主義に責任を持つことを約束します。台湾の自由、そしてすべての民主主義諸国の自由が尊重されることを再確認するのです。

Indeed, we take this trip at a time when the world faces a choice between autocracy and democracy. …… — it is essential that America and our allies make clear that we never give in to autocrats.
実際、世界が専制主義か民主主義かの選択に直面している中で、われわれは台湾への訪問を行います。…(略)… - アメリカと同盟国が決して専制主義者たちに屈しないことを明確にすることは絶対に必要なことなのです。(日本語訳はブログ運営人による)

出典:Opinion Nancy Pelosi: Why I’m leading a congressional delegation to Taiwan By Nancy Pelosi August 2, 2022 The Washington Post

ペロシ氏は台湾訪問に際し、「世界が専制主義か民主主義かの選択」を迫られる中で、民主主義と自由を守ることがきわめて重要であると強調しています。

民主主義対専制主義

「民主主義対専制主義」という論の立て方は、この間の米中・米ロ関係をめぐって、アメリカの指導者や識者たちの主張としてよく目にします。

そして、それはまた、冷戦期にレーガン大統領がソ連を「悪の帝国」と呼び、米国がそのような悪に勝利しなければならないと演説したことにも重なります。

米国のリーダーや識者たちが、歴代にわたってこうした対立の構図を描くことにこだわり、そこでのアメリカの勝利に強く執着してきたのはなぜでしょうか。

アメリカの「成功の夢」

そんなことをつらつら考えながら、斎藤眞『アメリカとは何か』(平凡社ライブラリー/1995年)を読み始めたのですが、「デモクラシーと成功の夢-アメリカ民主主義の文脈」と題する第Ⅰ章で、上記の問いに示唆を与えてくれる考察がありました。

以下はその引用です。

孤立主義の公の声明ともいうべきモンローの教書(一八二三年)も、ヨーロッパにおける神聖同盟に象徴される専制主義からアメリカにおける共和・民主主義を守るという発想がその根底に流れている。…(略)…神聖同盟に代表される正統主義という原則、ヴァティカンを拠点とするカトリシズム、そして時代は下るが、クレムリン宮殿を根城とする国際共産主義に対して、アメリカはいかにも神経質に対応してきた。そこには、一種の精神的孤立主義の趣き、外部からの異質的な思想の流入に対する強い警戒心さえ認められた。

しかし、成功の夢(ブログ運営人注:独立革命によって成立した共和・民主主義の新体制の維持と発展)は、外部からくつがえされないように安全に隔離・孤立されなければならないが、まさしくそれが「成功」の夢であるが故に、それは外部にも顕示され、拡大されなければならない。

「丘の上の町」は、バビロンの都の腐臭から守られなければならないが、同時に世界の鑑(かがみ)として、他にその光を及ぼさなければならない。

民主主義は、専制主義から守護されなければならないが、また、世界に普及されなければならないのである。

ジェファソンも、「われわれが、一方でわれわれ自身やわれわれの子孫の権利を確保しつつあると同時に、他方でわれわれと同様に暴君制から抜けだそうとしてたたかっている諸国民に対して、その方法をしめしているのだ」と一七九〇年に記している。孤立主義者ジェファソンは、また同時に普遍主義者でもあった。

出典:斎藤眞『アメリカとは何か』(平凡社ライブラリー/1995年)p. 38-39

「成功の夢」を受け継ぐペロシ氏の台湾訪問

今日における米中や米ロの対立も、米国の側から見れば、こうした歴史的文脈に位置付けられそうです。

そして、ペロシ氏の民主主義へのこだわりと「専制主義者たちに屈しない」決意もまた、そうした文脈の中で受け継がれてきたものだと言えるのかもしれません。

ソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガン大統領。民主的国家の建設を謳い、アフガニスタンやイラクに侵攻したブッシュ大統領。前回の当ブログ記事「米国によるアルカイダ指導者の殺害」で取り上げたバイデン大統領やオバマ大統領。

さらに言えば、CIAによる数々の秘密工作からテロとの戦いに至るまで、米国の歴代の指導者たちの意識とアメリカ外交の背景には、18世紀末にジェファソンが提示したところの、民主主義の信奉者としての孤立主義者であり「世界の鑑」であらんとする米国の歴史的な意思が深く埋め込まれているのかもしれません。

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