【アフガニスタン/アメリカ外交】元米駐アフガン大使が考察するアフガン政府・政府軍崩壊の原因

Foreign Affairsのウェブサイトに2021年8月16日付で、P. マイケル・マッキンリー氏(元米国駐アフガニスタン大使)による次の論考が掲載されています。

We All Lost Afghanistan: Two Decades of Mistakes, Misjudgments, and Collective Failure
米国によるアフガニスタンの喪失:20年に及ぶ過ちと判断ミス、そして集団的失敗

タリバンが首都カブールに侵攻し、アフガン政権が事実上崩壊したのは8月15日でしたので、その直後の掲載ということになります。

論考の要点を以下に要約します。

20年におよぶ歴代政権の誤り

タリバンの侵攻と米軍の撤退およびアフガン政府・政府軍の崩壊によりバイデン政権が批判にさらされているが、アフガンの悲惨な状況は、バイデン政権以前の3つの政権による20年におよぶ政策の誤りとアフガン指導者たちの統治の失敗の結果である。

国家建設(nation building)の失敗

米国は、アフガンにおける国際テロ組織アルカイダを撃退し、米国へのテロの脅威を減らすことに成功したが、反政府活動への対処やアフガンの統治、そして「国家建設(nation building)」において失敗した。

アフガン政府軍支援に関わる無駄、不正行為、汚職

米国は、自らが支援したアフガン政府軍の能力を過大評価し、また、支援に関わる無駄、不正行為、汚職などの問題点に対応できなかった。

タリバンを過小評価

米国は、タリバンの耐性と復元力を過小評価した。また、パキスタンによるタリバン支援の継続など、同地域の地政学的現実を読み誤った。

アフガン指導層の反発、大統領選の混迷

アフガンの民主化と「国家建設(nation building)」においては、教育や女性の権利向上などの分野で一定の成果をあげたが、米国の介入はアフガン指導層の反発も招き、大統領選挙も混迷した。

汚職や不正の横行、アフガン政府の独立性・正統性の欠如

さらに、アフガン政府部内での汚職や不正の横行、財政面や経済面での独立性や発展の欠如、麻薬取り締まりの失敗とヘロインの原料となるケシ栽培の増加など、政治・経済・社会の各領域でアフガン政府のぜい弱さが目立ち、米国が支援してきたアフガン政府は、その独立性と正統性を確立できなかった。

テロの脅威は米軍のアフガン駐留の理由とならない

米軍のアフガンからの撤退とタリバンの復権は、米国に対するテロの脅威を増加させる可能性がある。しかし、それは、米軍がアフガンに駐留し続ける必要性の理由にはならない。

イスラム国(ISIS)やアルカイダの分派は世界各地で活動しており、米国に対してテロの脅威を与え続けている。テロの脅威に対処するために米軍をアフガンに駐留し続けるならば、同様に世界の各地に米軍を派遣・駐留しなければならないことになる。

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ということで、マッキンリー氏の論考を読む限り、アフガン政府・政府軍の崩壊は起こるべくして起こったように思われます。

また、前回の当ブログで紹介したアナトール・リーブン氏の論考もやはり、マッキンリー氏の論考と重なる部分があります。

マッキンリー氏の論考によれば「2021年3月後半の時点では、米国のインテリジェンスはバイデン政権に対し、タリバンは2、3年以内(2、3週間ではない)にアフガンの大半を支配下に置くであろうと警告していた」とのこと。

それが事実であれば、米国インテリジェンスの見通しの甘さに驚かされます。また、なぜそのような見通しがなされたのか、不思議に思います()。

いずれにしても、マッキンリー氏の論考を読む限り、米国の歴代政権がアフガニスタンについての十分な理解を踏まえた政策や戦略を実行してこなかったこと、また、アフガンの現実を踏まえた政策や戦略の修正・転換が不十分であったことがうかがえます。

当ブログでも紹介したように、2021年7月2日付のニューヨーク・タイムズの記事では「米国のインテリジェンスの予測によれば、アフガン政府はアメリカの完全撤退後6か月以内にタリバンに屈する可能性がある」と見込まれていました。

これが事実であれば、マッキンリー氏が紹介している「タリバンは2、3年以内にアフガンの大半を支配下に置くであろう」という2021年3月時点の米インテリジェンスの予測は、その後に修正されたのかもしれません。

しかし、それでも「6か月以内」であり、現実に起こっていることと米インテリジェンスの予測との開きにがく然とさせられます。

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