【アフガニスタン】アフガンが再びテロリストの温床になる可能性は低い

前回の当ブログで「米軍撤退後、アフガニスタンはテロ組織の温床となり、タリバンもそうした組織との関係を築くのではないかとの懸念もある」ことに触れました。

しかし、Foreign Affairsのウェブサイトに2021年8月18日付で掲載されている下記の論考を読む限り、そうした懸念は必ずしも当たらないようです。

Will Afghanistan Become a Terrorist Safe Haven Again?
Just Because the Taliban Won Doesn’t Mean Jihadis Will

アフガニスタンは再びテロリストの温床となるか?
タリバンの勝利がジハーディストの意向に沿うわけではない

論者はダニエル・バイマン。ジョージタウン大学の教授で、ブルッキングス研究所のシニア・フェローです。著書は『Road Warriors: Foreign Fighters in the Armies of Jihad』(2019)。

論考の結論から言えば、タリバンと国際的なテロ組織であるアルカイダの間に関係が継続しているとしても、アフガニスタンが9.11テロ事件以前のようなジハーディストのテロ活動にとっての温床になる可能性は極めて低いということになります。

以下、その理由について論考の関連部分をごく簡潔に要約してみます。

タリバンにアルカイダ支持の動機は弱い

9.11テロ事件以前、タリバンはアルカイダがアフガニスタンをテロ活動の拠点として利用することを許した。タリバンとアルカイダの関係は今日においても切れてはいない。

しかし、旧タリバン政権時代と比較して、現在のタリバンにはアルカイダなどのテロ組織による欧米に対する国際的なテロ活動を支持する動機は弱い。

9.11テロ事件については、タリバンに対してアルカイダから事前の相談があったわけではない。また9.11後、タリバンは甚大な犠牲を被り、20年間にわたって政権から引き離され、米国との戦闘においいて多くのリーダーを失った。

パキスタンもアルカイダのテロ活動を支持しない

タリバンのスポンサー国であるパキスタンも、アルカイダの欧米に対する国際的なテロ活動を支持しない。タリバンが勝利した今となっては、アルカイダの国際的テロ活動により、米軍が再びアフガン地域に展開するような事態は避けたい。

また、これまでの経緯から、バイデン政権はパキスタンを信用していない。仮にパキスタンがインドとの紛争を戦うためのテロ組織や武装勢力をタリバン政権下のアフガンにおいて養うようなことがあれば、米国はパキスタンのそのような行動を容認しないであろう

アルカイダの弱体化

アルカイダは9.11以降、多くのリーダーと資金を失い、国際的なテロ活動を行うためにアフガンを利用する力を失っている。イエメンのアルカイダ組織のように欧米に対するテロ攻撃を試みる事例もあるが、限定的である。

米のインテリジェンス・遠隔攻撃・安全保障対策

米インテリジェンスは米軍のアフガンからの撤退に備え、アルカイダの勢力拡大を阻止するための情報収集能力の維持に努めてきた。

米軍はアフガニスタン国外の基地からの、米空軍による監視と攻撃の能力を発展させてきた。アルカイダや他のグループが、9.11以前のような大規模な訓練施設をアフガンに維持することは困難である。

米国内の安全保障対策は、9.11以降、劇的に向上した。国際的なインテリジェンスにより、アルカイダやISIS、その他のテロ組織の活動は監視されている。

まとめ

ということで、まとめると、

・タリバンはアルカイダのテロ活動を支持する動機を持たない
・パキスタンもテロ組織や武装勢力をアフガンに維持することに利益を見出せない
・短期的にはアルカイダがかつてのような勢いを取り戻すこともない
・テロ対策に向けた米国のインテリジェンス・遠隔攻撃・安全保障対策は向上している(※)
・したがって、米軍撤退後にアフガニスタンがアルカイダなどのテロ組織の温床になる可能性は極めて低い

というのがバイマンの論考の主張です。

以上のことを踏まえるならば、アフガニスタンがテロ組織の温床になるとの懸念や、そうした事態を防ぐために米軍がアフガンに駐留し続けるべきだとする主張は説得力に欠けそうです

※ バイマンが取り上げているテロ対策に向けた米国のインテリジェンス・遠隔攻撃・安全保障の向上、との指摘には疑問も残ります。

当ブログでも取り上げましたが(2021年8月18日付同8月24日付)、アフガン政府・政府軍の崩壊のスピードは米インテリジェンスの予測と大きな開きがあり、アフガンに対する米インテリジェンスの理解力や情報収集能力に疑念を抱かせました。

また直近の例では、米無人航空機による2021年8月29日の首都カブールでの空爆は誤爆の疑いがあると報じられています。

これについては、ニューヨーク・タイムズの記事「Times Investigation: In U.S. Drone Strike, Evidence Suggests No ISIS Bomb」(2021年9月10日付)を参照してください。

米軍の説明とニューヨーク・タイムズによる現地取材や映像分析で明らかになった事実との間には大きな相違が生じています。事実の経過が淡々と述べられた記事ですが、その内容は重たく、痛ましいものです。

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