著書が出る度に大きな話題となる米ジャーナリスト、ボブ・ウッドワードが、ウクライナ戦争、中東での戦争、そして米国での大統領職をめぐる戦いの裏側に迫った新著『WAR』について、米公共放送PBS News Hourで語っています。
下記のいずれかをご覧ください。
Bob Woodward discusses ‘War,’ his new book breaking down world conflicts and U.S. politics Oct 15, 2024(英文のトランスクリプトはこちらで確認できます)
PBS News Hour October 15, 2024(時間帯を28:58-38:26に合わせてください)
同番組のインタビューのトランスクリプトを日本語に訳したものを以下に掲載します。
ボブ・ウッドワード、世界の紛争と米国政治を分析した新著『WAR』について語る
※小見出しはブログ管理人によるものです。
ジェフ・ベネット、PBS News Hourのアンカー:
今日、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード氏ほど多くの大統領を取材してきたジャーナリストはほとんどいません。彼の最新刊が本日発売されました。
ニック・シフリンが少し前に、ボブ・ウッドワード氏にインタビューを行いました。
ニック・シフリン:
ウッドワード氏の新しい本のタイトルは『WAR』です。ウクライナでの戦争、中東での戦争、そしてアメリカの大統領職をめぐる戦いについて書かれています。
こちらが、ボブ・ウッドワードさんです。ニュースアワーにようこそお越しくださいました。
ボブ・ウッドワード、『WAR』の著者:
お招きいただき、ありがとうございます。
ネタニヤフを嫌っても、イスラエル支持は揺るがない
ニック・シフリン:
ボブ・ウッドワードさん、どうもありがとうございます。早速ですが、中東の件からお伺いします。
ベアハグ(強い抱擁)と呼ばれることの多いイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相。彼に対するバイデン大統領の方針というのは、彼をしっかりと支えれば、アメリカの国益に沿って穏健な行動をとってくれるだろう、そういう考えです。
しかし、あなたが引用されているように、バイデン大統領はプライベートな場面で彼のことを、最低の男、世界で最もろくでなしな男の1人、最悪なやつ、ろくでもない嘘つきだ、と呼んでいます。
中東ではかつてない出来事が起こりました。10月7日のハマスによる攻撃への対応について、バイデン大統領はイスラエルに対し、自らの考えを伝えようとします。これに対してネタニヤフ首相は耳を傾けている、とバイデン大統領は感じているのでしょうか?
ボブ・ウッドワード:
ええ、聞くことはしていると思いますが、ネタニヤフ首相は自分のやりたいことをやっていくつもりでいます。彼はバイデン大統領にこう言っています。いいですか、あなたが気に入らないことでも、やっていく必要があるのです、と。
興味深いのは、米国とイスラエルの間には同盟の方針が存在しているはずです。ホワイトハウスのある人物が言うように、バイデン大統領の方針は、必ずしもネタニヤフ首相を支持するものではありませんが、イスラエルを支持するものではあります。
ニック・シフリン:
ネタニヤフへの支持に関しては、バイデン大統領の公式の場での発言とプライベートでの彼に対する評価にはギャップがあります。同様のことは、あなたが書かれているように、カマラ・ハリス副大統領に関しても言えます。
あなたは、ハリス副大統領とネタニヤフ首相の7月の会談を採り上げています。その会談の後、同席したイスラエルの大使は、会談は友好的だったと述べています。しかし、会談から出てきたハリス副大統領は、「ガザの人々が苦しんでいる中、私は黙っているわけにはいかない」と述べています。
そして、あなたの説明によれば、ネタニヤフ首相は激怒していたということです。
ボブ・ウッドワード:
ネタニヤフ首相は激怒していました。というのは、その会談は、イスラエル、米国ともに満足するものだったからです。ところが、ハリス副大統領は、あなたが今言ったようなことを述べました。このことは、彼女の姿勢について物語っています。彼女はバイデン大統領の方針のいくつかに同意していないということです。
それで、ネタニヤフ首相は激怒していたのです。しかし、これは数か月前のことです。あなたもご存じのように、そしてネタニヤフ首相も理解しているとおり、彼女の発言は、次期米国大統領となることの名誉を損なうものです。したがって、怒りはあっても、個人的なものとして留めているのです。
なりふり構わぬ独裁者プーチン
ニック・シフリン:
ウクライナの問題に移りましょう。
2022年9月には、米国インテリジェンスの詳細なレポートが、プーチン大統領は戦闘の敗北に対しなりふり構わずの状況であることを明らかにしています。あなたが引用したある人物の言葉によれば、ウクライナで戦術核を使用する可能性が5%から10%へ、そして50%へと、すなわち、コインを投げて決めるところにまで高まったこということです。
なぜでしょうか? 何が、戦術核使用の可能性がそれほどまでに高まったことを示していたのでしょうか?
ボブ・ウッドワード:
この差し迫った状況を米国のインテリジェンスはよく把握しています。実際、クレムリンで何が起こっているのか、その都度、つかんでいるのです。
1つには、米国インテリジェンスには情報を入手するための人的な情報源があります。だから、そうした状況を描くことができるのです。プーチン大統領は独裁者で、なりふり構わずの状況になっていることに、米国インテリジェンスは気づいています。ロシア側のドクトリンでは、戦闘での壊滅的な敗北に直面すれば、戦術核の使用に向かうのです。プーチン大統領は個人的にそれを行うのです。
しかし、公には、あなたが先程言ったように、5%から50%までの確率だ、ということになるのです。ホワイトハウスの認識では、50%とはコインを投げて決めることを意味するに他なりません。ジョン・ファイナー国家安全保障担当次席補佐官は、これが極めて重大な局面であり、1962年のキューバでのミサイル危機に相当するものだと考えているのです。
ニック・シフリン:
あなたは、米大統領が発した総動員の対応を求める命令についても採り上げています。その中では、ロイド・オースティン米国防長官とロシアのセルゲイ・ショイグ国防相の電話会談も含まれています。
電話会談の中でオースティン長官はこう述べています。―引用―「もしロシアがそうするのであれば、ウクライナで我々がとってきたすべての抑制は再考されることになります。そうなれば、あなた方が到底理解できないほどに、ロシアは世界の舞台から孤立することになります」
ショイグ:
「私はあなた方に脅迫されることを快く思いません」
オースティン:
「私は世界史上最強の軍隊のリーダーです。脅したりはしません」
ニック・シフリン:
数日後、ショイグ国防所は折り返しの電話で「我々は、ウクライナが汚い爆弾(有害な放射性物質をまき散らす爆弾)の使用を考えているという情報を持っている」と述べます。要するに、この言葉には、ロシアがウクライナに対し戦術核を使用する意図があるという意味が込められています。
オースティン:
「あなた方が核兵器を使用する下地を作ろうとしているように思えます。やめてください」
ショイグ:
「分かっています」
ニック・シフリン:
この電話、そしてこの瞬間というのは、どれほどに緊迫したものだったのでしょうか?
ボブ・ウッドワード:
ええ、どの場面も非常に緊迫したものです。その掛け金はこれ以上ないほどに高まっていたのです。
プーチン大統領というのは―先ほど述べたように、独裁者です。私が書いたように、インテリジェンスによるプーチン大統領の評価では、彼は残忍な指導者であるだけでなく、サディストでもあるということです。まったくもってそういうことです。
計画を持たず、思いつきで行動するトランプ
ニック・シフリン:
ドナルド・トランプ前大統領に話を移しましょう。
あなたが書いているところでは、2020年当時、大統領としてトランプ氏は、プーチン大統領の個人的な使用のために、当時不足していたアボット社のポイント・オブ・ケアの新型コロナウイルス検査機を多数送っています。そして、退任以降、トランプ氏はプーチン大統領と7回も会談しています。
あなたの引用によると、ダン・コーツ前国家情報長官は、トランプ氏がプーチン大統領をこのように扱うのは謎である、と述べているようですが、これは依然として謎のままであると考えますか?
ボブ・ウッドワード:
そうですね、それとも恐喝でしょうか? コーツ氏が問題にしているのはそういうことです。しかし今では、トランプ氏ははっきりと言っています―プーチンと話したことを否定せず、つまり、…
ニック・シフリン:
そうするのが賢いだろう。
ボブ・ウッドワード:
そのとおりです。トランプ氏が何かを賢いと述べる場合、それを実行したか、実行するつもりだということです。
プーチン大統領とトランプ氏の関係は、トランプ氏を理解するうえで鍵となります。トランプ氏の特徴というのは、実際のところ、彼が計画を持たないということです。計画ではなく、彼の頭に浮かんでくるだけなのです。彼はチームを持たず、単独で動きます。これは、他の人たちがプーチン大統領と築いてきた関係とは大きく異なります。
米軍を関与させないことで、バイデンはアメリカを安全なものにした
ニック・シフリン:
最後に、私たちが前向きでいられるか、ということに関わるのですが。
私が話をしたバイデン大統領の側近の多くは、ガザでの停戦は期待できないと語っています。レバノンについては、停戦さえ求めていません。ウクライナに関して言えば、ウクライナができることはせいぜい、来年にかけて戦線を維持することであろうと懸念しています。
したがって、あなたが書いているように、バイデン大統領の側近の多くは、これらの戦争に米軍を使って巻き込まれなかったことを誇りに思っています。一方で、自分たちの監視下で始まった戦争を終わらせることができなかったことが、彼らのレガシーとなることも懸念しています。こうしたことは聞いておられますか?
ボブ・ウッドワード:
しかし、非常に重要なのは、彼が意図的に米軍を投入しなかったということです。ジョー・バイデン氏は81歳ですが、軍隊ではなく政治の世界で、ベトナムというものを経験しています。
そして彼はベトナムをこう理解しています。我々は外国の戦争で50万人のアメリカ軍をベトナムに送り込んで戦った、おそらくは北朝鮮という巨大な危険のために。つまり、バイデン大統領は、米軍を危険にさらすのは崖から踏み外すときだと言っているのです。
しかし、そうはしないことで、バイデン大統領は米国をはるかに有利な立場においたのです。バイデン大統領が行ったことの1つは、中東やアジア、あるいはどこであれ、米軍を関与させないことで自国をより安全にしたことです。これが、私が到達した全体的な結論です。
ニック・シフリン:
ボブ・ウッドワードさんに新著『WAR』について語っていただきました。ありがとうございました。
ボブ・ウッドワード:
こちらこそ、どうもありがとう。