【日本/アメリカ外交】菅・バイデン共同声明で気になる点/菅首相・カマラ・ハリス副大統領のあいさつで残念なこと

菅・バイデン共同声明の3つの文書

2021年4月16日(米国東部時間)に発表された菅首相とバイデン大統領による日米首脳共同声明は次の3つの文書によって構成されています。

U.S.- Japan Joint Leaders’ Statement: “U.S. – JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA”(日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」)
Japan-U.S. Climate Partnership on Ambition, Decarbonization, and Clean Energy(野心、脱炭素化及びクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ)
U.S.-Japan Competitiveness and Resilience (CoRe) Partnership(日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ)

それぞれの文書の英文と日本語訳は、日本の外務省の以下のウェブサイトに掲載されています。外務省 日米首脳共同声明

また、同日の両首脳の記者会見のスクリプトと映像はホワイトハウスの下記のサイトで確認できます。
スクリプト:Remarks by President Biden and Prime Minister Suga of Japan at Press Conference APRIL 16, 2021
映像:President Biden Participates in a Press Conference with H.E. Suga Yoshihide, Prime Minister of Japan

日本の「防衛力の強化」とは?

上記の3つの文書のうち、日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」において気になる点は、目新しいものではありませんが、次の部分です。

Japan resolved to bolster its own national defense capabilities to further strengthen the Alliance and regional security. The United States restated its unwavering support for Japan’s defense under the U.S.-Japan Treaty of Mutual Cooperation and Security, using its full range of capabilities, including nuclear.
日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した。米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した。
※ 日本語訳は上記で紹介した外務省のウェブサイトに掲載されている仮訳です。

日本は「自らの防衛力を強化することを決意した」とあり、アメリカは「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した」ということです。

日本の「防衛力の強化」とは具体的にどのようなものになるのでしょうか。

菅首相や日本政府には国民に分かりやすく説明して欲しいと思いますし、国会でもそのための論戦を期待したいと思います。防衛白書も読まなければいけませんね。

また、「核を含むあらゆる種類の米国の能力」に引き続き依存せざるを得ないとする状況では、日本はそのために良好な日米関係を維持することが求められ、さまざまな面での苦心や努力が続くことになると思います(コロナ禍での菅首相の訪米もそうした努力の1つでしょう)。

しかし、そうした苦心や努力についてはその取り組みが国民にはなかなか伝わってこず、それを理解するには情報が少なすぎるように感じます。

この点についても、政府には可能なかぎり国民に説明して欲しいと思いますし、苦心や努力の有り様やその是非について、国会での論戦、メディアの積極的な報道も期待したいと思います。

advanced nuclear power革新原子力)とは?

上記の3つの文書のうち、「野心、脱炭素化及びクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ」と「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」には、関連分野での日米のさまざまな取組が列挙されています。

これらの1つひとつを理解するのも、なかなか難しいことです。

この2つの文書に列挙されている取組の1つに「advanced nuclear power」(革新原子力)というものがあります。

不勉強な私にはあまり聞きなれない用語ですが、インターネットで検索してみると、原子炉の小型化など、日米双方での研究が進められているようです(たとえば、日本の資源エネルギー庁のこちらのウェブサイトを参照してみてください)。

そのような先進技術の研究の重要性や期待感については一定理解できますが、地震・津波など自然災害が多く、いたる所に活断層があるといわれる日本列島において、そのような小型原子炉が各所に設置されるかもしれない状況というのは、非常に不安な気持ちになるのですが、実際のところどうなのでしょうか。

また、いわゆる「核のゴミ」の問題はこの「革新原子力」によって改善されるのでしょうか?

菅首相とカマラ・ハリス副大統領の面会での残念なこと

最後に、今回の日米首脳会談の際の菅首相とカマラ・ハリス副大統領の面会での、ハリス氏のあいさつの一部を紹介します。

And it is also a personal point of privilege for me to spend this time with you.  As you know, I come from California, where we have a very strong and vibrant Japanese American community who has made great contributions, obviously, to not only the state, but to the country.  And it is a community which I have — with which I have worked and lived for my entire life.
菅首相とこの時間を共にすることはまた、私にとって個人的な喜びでもあります。ご承知の通り、私はカリフォルニア州の出身で、そこには、州だけでなく米国に対する偉大な貢献をした、とても影響力のある活気に満ちた日系アメリカ人のコミュニティがあります。私はそのコミュニティと仕事をし、人生を共にしてきたのです。

ごく短いものですが、日系アメリカ人の多いカリフォルニア州の出身で、アフリカ系・アジア系の副大統領らしい内容のあいさつだと思います。

しかし、これに対する菅首相の返答の一部は下記のとおり通り一遍なもので、残念です。

Japan highly praises and appreciates that the Biden-Harris administration puts high importance on cooperating with its allies and partners. There is no other time than today when the Japan-U.S. alliance needs to be strong. This is an alliance that is connected by universal values such as freedom, democracy, and the rule of law.

日本はバイデン大統領・ハリス副大統領の政権が同盟国や友好国との協力を非常に重視しておられることに敬意を表します。今日ほど強固な日米同盟が求められている時はありません。この両国の関係は、自由、民主主義、法の支配といった普遍的な価値によって結ばれた同盟なのです。

Today, I very much look forward to discussing with you, Vice President Harris, as well as with President Biden later on, regarding important challenges — a wide range of challenges –that both Japan and the United States face and reconfirm the bond of our alliance.

本日、私は、日米両国が直面し、同盟のきずなを再確認する必要のある重要で幅広い課題について、ハリス副大統領、そして後にバイデン大統領と会談できることを非常に期待してております。

ハリス副大統領の出自と経歴を踏まえれば、彼女の上記のようなあいさつを予測するのはそれほど難しいことではないように思います。また、日米両国担当者同士の事前のすり合わせもあるのではないでしょうか。


いずれににしても、菅首相には日系アメリカ人の苦難や米国社会での共生の歴史について少しでも触れて欲しかった気がします(会談の中でそのような話題も話されたのかもしれませんが、外務省のウェブサイトを確認する限りではわかりません)。

ハリス氏が日系アメリカ人について触れているのですから、日本の首相には、仮に事前に用意ができていなくても、それに応えられる力量があって欲しいと思います。

菅首相とハリス副大統領のあいさつ:Remarks by Vice President Harris and Prime Minister Suga of Japan Before Bilateral Meeting APRIL 16, 2021

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