ペンス副大統領の2018年10月の演説
米中の対立を理解するうえで、米フロントラインのドキュメンタリー「Trump’s Trade War(トランプの貿易戦争)」は必見という記事を前回書きました(こちら)。
そのドキュメンタリーでも取り上げられているのが、マイク・ペンス米副大統領が2018年10月4日にワシントンD.C.のハドソン研究所で行った「中国に対するトランプ政権の方針」演説です。
演説の映像をYouTubeに掲載しているVoice of Americaは次のように説明しています。
Pence accused China of “meddling in America’s democracy,” in a wide-ranging speech. He also slammed China’s militarization of contested areas in the South and East China Sea, its practice of “debt diplomacy” in developing countries, and efforts to convince other nations to sever ties with Taiwan.
ペンスは多岐にわたる内容の演説で中国を「アメリカの民主主義に干渉している」と非難しました。彼はまた、南シナ海と東シナ海で争われている地域を中国が軍事化していることや中国による発展途上国への「借金漬け外交」、台湾との関係を断つよう他の国々を説得する中国の行動を非難しました。
ペンス副大統領のこの演説では、上記の説明にあるように、中国がアメリカの内外や自国において影響力や支配力を強めようとする行為が直接的に「告発」されていきます。
いくつか引用してみます。
米企業への圧力
北京は今、多くのアメリカ企業に対し、中国でビジネスを行う代償として貿易に関わる秘密事項を手渡すよう求めている。北京はまた、アメリカ企業の買収を調整・支援することで企業の製品やサービスの所有権を得ようとしている。なかでも最悪なのは、中国のセキュリティ機関が、最先端の軍事的な設計図などのアメリカのテクノロジーを大規模に盗み出すことを企てていることだ。その盗んだテクノロジーを用いて、中国共産党は大規模に鋤を剣に変えている。
軍備増強
中国は今、他のアジア諸国を合わせたものと同等の額を軍備に費やしており、北京は、アメリカ軍の地上、海上、航空、宇宙での優位性を侵す能力を持つことに力を注いでいる。中国はまさに西太平洋から米国を追い出すことを求めており、米国が同盟国を支援することを妨げようと試みている。しかし、中国は失敗するだろう。
監視国家
今日、中国は並ぶもののない監視国家を築き上げ、それは多くの場合、米国のテクノロジーを用いてより拡大し侵害し続けている。中国が「グレイト・ファイアウォール・オブ・チャイナ」と呼ぶシステムは同様により高度なものとなり、情報が中国国民に自由に流れることを劇的に制限している。
手を貸してきた米歴代政権
これらは中国が世界中で自らの戦略的利益を前進させるために求めてきた方策のいくつかにすぎず、その強度と洗練さは勢いを増している。しかし、米国のこれまでの政権は中国の行動にほとんど気づかないふりをしてきた。多くの場合、これまでの政権はそれに手を貸してきた。しかし、そうした時代は終わったのだ。
ペンス演説のインパクト
いかがでしょうか。
演説の中ではこうした直接的な「告発」が続いていきます。これを聞いて多くの米国民は中国への不信を強め、逆に中国は強く反発したことでしょう。
この演説が行われた当時、私はワシントンD.C.に留学中でした。受講していたプロパガンダをテーマにしたクラスで、ゲストスピーカーがこの演説の米中双方へのインパクトの大きさを語っていたことを思い出します。
実際、この演説の後、2018年12月に米国議会は共和党と民主党の合意の下で「アジア再保証推進法」を成立させ、中国へのけん制の姿勢をはっきりと示しました。
ホワイトハウスのウェブサイトには演説の全文が掲載されています。そちらも確認してみてください。
映像:Vice President Mike Pence’s China Speech at Hudson Institute (4 Oct 2018, Voice of America)
演説全文:Remarks by Vice President Pence on the Administration’s Policy Toward China Issued on: October 4, 2018 The Hudson Institute Washington, D.C.
追記(2024年7月12日)
当ブログの「マイルズ・ユー:トランプ政権の中国政策アドバイザー」(2020年8月12日付)を読むと、ペンス副大統領の上記の演説が歴代の米政権とは異なる強硬なスタンスをとった背景の一端が理解できるのではないかと思います。